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2010-04-19

中村桂子先生のインタビューを終わって



今回中村桂子先生のインタビューをさせていただくのに、ご著書の「ゲノムが語る生命」についての質問という形をとらせていただいたのだが、中村先生はこの本の副題にあるとおり、「新たな知の創造」というものにむけて一歩を踏み出されている。ここで科学でなく、「知」という言葉をつかうのは、科学を踏まえながらも、それに囚われるのではない、対象をただ客観的に、外側から記述するということではなく、目のくらむような複雑な自然をまるごと受け止め、それを「愛づる」ことで、そこから聞こえてくる物語に耳をすませてみようじゃないかという、そういう大きな世界を、中村先生が創りだしたいと思っているからだ。もちろん中村先生のその思いは、今に始まったことではなく、30年近くにわたって考えつづけ、「ゲノム」という考え方を提唱し、研究館をつくり、幾多の骨太な活動をしてこられているわけだが、今さらにここで、「新たな知」の創造を掲げるというのは、中村先生が現在の科学の現状に深刻な危機感をいだき、このまま進んで行ってしまっては、科学はおろか、人類の破滅にすらつながりかねないと考えているからである。

中村先生は今回のインタビューで、5年前にこの「ゲノムが語る生命」を出版されて以来、お考えになり、活動してこられていることを、存分に語ってくださった。構想中の新しい本の内容を始めとして、今まさに進めている研究のことから、ご自身が迷っているというところまで。熟練の研究者が前に進もうとするときの熱気のようなものそのものを、感じさせてもらうことができたと思う。また最後には、「どこからか天才があらわれて、すべてを解決してくれないか」という、ほとんど祈りにも近いことを、中村先生がお考えであるということを知り、強く感銘をうけるとともに、僕自身、微力ながらも、なんとかそこに貢献することができないかと、願わずにはいられなかった。

今回中村先生には、お時間をさいてお話ししてくださったのみならず、文字おこしをした原稿に2度にまでわたって入念に手を入れていただいて、お忙しいところ、何とお礼を言ったらよいのか分からないくらい、ありがたく思っている。



中村桂子先生インタビュー(1) 「分子生物学の始まり」
中村桂子先生インタビュー(2) 「分子生物学の流れ」