炒め物というのは、たのしいですよね。
だいたい、スピーディーに進んでいくのがいい。
日本料理の場合、「煮物」が中心になるわけだけど、どうしたって「コトコト煮る」ということになるから、時間がかかる。
それでも日本の場合は、煮るといったって、まだ20~30分かそこらだけれど、ヨーロッパ料理などなら、牛肉を丸1日かけて煮たりもするわけでしょう。
さらに「漬物」や「干物」などとなってくると、できるまでに何日とか、場合によっては何ヶ月もかかることになる。
それにたいして炒め物は、ものの5分か10分でできてしまうのだから、現代人の時間感覚に合ったものだといえますよね。
しかしそれももっともな話で、炒め物は「近代」へとむかう技術革新の中で生まれているんです。
炒め物が誕生するには、「石炭」が必要だった。
それまで薪や炭をつかっていたところから、石炭の強力な火力を利用できるようになったからこそ、高熱で急速に水気をとばす炒め物が、可能になったということなんですね。
だから今や、中国料理の「中心」ともいえそうな炒め物ですが、誕生したのは、中国4千年の歴史のなかでは意外に最近で、1000年前くらいなのだとか。
現在では、「青菜炒め」1つとっても、さまざまな炒め方や、異なった調味料の使い方により、100種類にもおよぶやり方があるといいますから、強力な火力を手にした中国料理は、この1000年で、新たに大きな進化を遂げたということなのでしょう。
1000年前というと、日本はちょうど、「鎌倉時代」なんですね。
その頃ちょうど、禅宗で「ニンニク禁止令」が発令されたのは、興味深くはないでしょうか。
中国が新たな進化の入り口に立ったのと時をおなじくして、日本では肉につづいてニンニクまでを禁止して、中国の料理法から決定的に離反していくことになる。
それまでのやり方に固執するあまり、世界の新たな動きについていけなくなるのって、日本ではよくあることでしょう。
携帯電話が「ガラパゴス化」したのが典型的かとおもいますが、今もまさに、原子力に固執するあまり、地域分散型のエネルギーを開発するという世界的な動きから、日本は完全に乗り遅れようとしている。
でもそれは、今に始まったことではなく、「日本は昔からそうだった」ということだと思うんですね。
世界3大料理の1つにも数えられる中国料理は、「4つ足のものは机以外はなんでも食べる」といわれる食材の多様さからいっても、調理法の豊富さからいっても、世界で比類がないのではないかとおもいますが、それはもちろん1つには、中国人が「食べる」ことについて貪欲だということはあるのでしょう。
食べるのが好きでなければ、料理がこれほど発展するはずはありません。
でも中国料理の発展の理由は、ただ「食欲」だけにあるのではないとも思うんです。
食べるのは、人間なら誰だって、好きですよね。
それよりむしろ、食を「文化」としてとらえる考え方が、中国に根付いているからなのじゃないかという気がします。
その「証拠」とまではいえないですが、中国人は、男性でも料理をする割合が、ほかの国に比べてもかなり高いのではないでしょうか。
日本にいる中国人の男性で、べつに中華料理屋で働くわけでもない、ふつうの人が、料理を達者にすることが、非常に多いんじゃないかと思うんです。
男性って、何かするのに「理由」が必要となる生き物だと思うんですよね。
中国では1つには、一般家庭はまだそれほど豊かではないから、夫婦は共働きがふつうで、男性も家事を分担するのが当たり前とされていることはあるみたいです。
でも日本だって、共働きは多いとおもいますが、共働きをするご主人が、みんながみんな料理をするかといえば、そういうことでもないですよね。
日本の場合、「政治」や「経済」などに比べ、「料理」は格下のものであると考えられていることがあるでしょう。
だから男は世の中の「大事」をなし、女性が料理など「小事」を受けもつということになっているところがある。
だいたいほとんどの日本人の男性は、料理を自分でしないばかりか、考えることすらせず、何を食べるかを奥さんに任せきりということになっているのではないでしょうか。
それにたいして中国では、すくなくとも料理が、「男性がするに値しない」とは思われていないように見える。
経済評論家であり、日中の多くの会社の経営者だった邱永漢も、自分でも料理をするし、奥さんがきちんと自分好みの料理を作ってくれるよう、かなりの気を使っていたと、著書「食は広州に在り」に書いています。
そういう、食にたいする考え方の根本的なちがいが、中国にあるからこそ、中国料理があれほど発展してきたのだと思うところがあるんですよね。
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昨日は、夏野菜の代表でもある「ナス」をつかった料理。
ナスは現代では、ハウス物が1年中出回るようになっていますが、やはり夏場の、露地物のナスは、味が全然ちがいますよね。
夏のナスには、アクがまったくない。
ただ塩もみしただけで、醤油も何もかけなくても、甘く、みずみずしい味がします。
ナスもまた、どういう食べ方をしてもおいしいものですが、「油との相性がいい」のも、1つの特徴だといえるでしょう。
だから揚げたり、炒めたりすると、大変おいしいわけですね。
中国の料理で、ナスをつかったものといえば、「麻婆ナス」がまず思い浮かびますが、昨日はちょっと趣向をかえて、麻婆ナスの味付けを、カレー味にしてみました。
豆板醤のかわりにカレー粉、味噌のかわりにトマト缶をつかったんですが、これがまたイケて、とてもおいしいですよ。
名前をどうしようかと思ったんですが、とりあえず、
「麻婆ナス・カレー味」
としてみました。
でもこれは、
「なすカレー中華風」」
でも一向にかまいません。
◎ 麻婆ナス・カレー味の作り方
■ 材 料
以下は、2食分の材料です。
夜、酒のつまみで半分食べて、翌朝残りをご飯にかけるという企画です。
・ナス・・・3本
ナスは大きさが色々ありますから、大きいのなら2本でいいですね。
・豚ひき肉・・・150g
これはべつに牛と豚の合い挽きでも問題ありません。
分量も100gでも200gでもいいです。
・サラダ油・・・大さじ3+大さじ3
ナスを炒めるのと、そのあと全体を炒めるのとで使います。
・ニンニク・・・1かけ
・ショウガ・・・1かけ
・ネギ・・・15センチほど
「1かけ」とは、「親指の先ほど」という意味です。
いずれもみじん切りにしておきます。
・唐辛子・・・1本
ヘタをとり、タネを抜いて、輪切りにしておきます。
・カレー粉・・・大さじ1
・カットトマト缶・・・大さじ3
冷蔵庫にカットトマト缶が残っていたので、それを使いましたが、このためにわざわざカットトマト缶を買う必要はありません。
トマトケチャップがあれば、それでもいいんじゃないかと思います。
ただケチャップの場合、大さじ1くらいにしておいたほうがいいかもしれません。
・酒・・・大さじ3
・砂糖・・・小さじ1
・水・・・200cc
・塩・・・少々
・水溶き片栗粉・・・片栗粉大さじ1に、水大さじ2を混ぜあわせておく
■ 作り方
炒めるのでも、たっぷりの油でやれば、まったく問題ありません。
大さじ3のサラダ油をフライパンにいれ中火で温め、大きめに切ったナスを、じっくり炒めます。
ナスは乱切りにしましたが、輪切りでもかまいません。
でもいずれにせよ、ナスは炒めると、けっこう縮むので、
「ちょっと大きすぎかも・・・」
くらいの大きさに切っておくと、出来あがりはちょうどよくなります。
5分ていど炒め、ナスがしんなりしてきたら、皿にとり出しておきます。
ひき肉は、しっかり炒めるのがポイントです。
途中で肉汁が出てきますが、これをすべて飛ばすようにします。
強火のままで炒めると、焦げてしまうからです。
匂いが立ってきたら、カレー粉をいれ、さらにしばらく炒めます。
醤油できちんと肉に味をつけたら、酒、トマト缶。
すこし炒め、さらに水、砂糖をいれ、火を強めて煮立てます。
味を見て、塩を足して味を決めます。
最後に火を強火にし、水溶き片栗粉をまわしいれ、よく混ぜればできあがり。
これは作り方は中華風ですが、味はほぼ、ふつうの「なすカレー」です。
ただ玉ねぎの代わりに長ねぎをつかい、醤油や酒も入っていますから、あえていえば、
「そば屋の和風カレーの中華版」
という趣きです。
非常におすすめです。
昨日は焼酎のお湯割り。
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昨日はスグキがあったのですが、そのままでは中華風の味には合いません。
そこでじゃこと一緒に、ゴマ油で炒めてみました。
これも非常によかったですね。
◎ スグキのじゃこ炒め
酒と醤油をすこしずつたらし、絡めつければ出来あがり。
スグキじゃなく、高菜でやってもおいしくできます。