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2008-05-28

『音楽遍歴』 小泉純一郎著

小泉さんというのは、つくづく憎めない人だなと思う。

自伝を書くことについては、かたくなに拒んでいるのだそうだ。「人の悪口は書けないから」。しかし音楽のことなら、ということでインタビューに応じ、それをまとめたもの。中学校で先生からバイオリンを習ったことから、クラッシック、オペラ、ミュージカル、プレスリー、Xジャパン、カラオケと、意外に幅が広くて、驚くほど詳しい。CDを買い込み、本を読んで勉強し、オペラなどは自分でチケットを買って観に行くという。ドイツの首相とオペラに行ったり、ブッシュ大統領とプレスリーの生地へ行き、たまたま居合わせたバンドの演奏に合わせてプレスリーの歌を歌ったりと、エピソードも楽しい。

小泉語録ではないのだが、随所にニヤリとさせられる表現がある。素人に向けた入門になるように書かれていて、おせっかいと言えばおせっかいなのだが、初めに聞くならどれとか、オペラのこれとこれとこれを観てオペラの良さが分からない人は、もうオペラを観なくて良いとか、いちいち笑える。ロマンチストなんだなと思える話も多く、オペラは愛だ、という、ちょっと気恥ずかしくなるようなことを言いながら、でも自分は愛しているとは言えない、とか、忠臣蔵の話から、批判に耐えてあえて嘘をつくところに、観客は感動するとか、ドンキホーテが好きで、国会で「あなたはドンキホーテだ、できないことばかり言って」と批判され、それでけっこう、「郵政民営化は将来必ず正論になる」と言い返したとか。国会の修羅場で自分をドンキホーテにたとえていたのかと思うと、幸せな気持ちになる。

読んでみてあらためて感じるのは、小泉さんという人が、自分自身の感覚を信頼して、そこを拠り所として行動する人だということ。他人がどうだからとか、このほうが利益があるとか、それももちろん大事だが、それを含めて最終的には、自分の感覚にしたがって決める。色んな音楽について、これは好きとか、これはあまり好きではないとか、はっきりしている。好きなものを、本当に嬉しそうに語る。人間として当たり前といえば当たり前だが、貫くのは難しい。凡人の日常ですら難しいのに、総理大臣のプレッシャーたるや、想像を絶したことだろう。たいした人だなと思う。

小泉さんが任期中にやったことについて、正しかったのかそうでなかったのか、ぼくには判断できない。しかしその人柄に触れることが、喜びだったと思う。これもそういう喜びをくれる、一冊である。

日経プレミアシリーズ、850円+税。


音楽遍歴 [日経プレミアシリーズ] (日経プレミアシリーズ (001))