2011-12-19
牛すじだしの入ったやさしい味。
「広島流おでん」
ラーメン屋で出てくるツマミといえば、東京の感覚ではギョウザだし、京都でも同様だ。ラーメンは中華料理の一種だから、ツマミも中華料理であるギョウザということになるのだと思うが、広島のラーメン屋では、おでんが出てくることが多い。
これはたぶん、屋台文化の影響なのだろう。今でも博多に健在の、ラーメン屋の屋台では、ラーメンはあくまでシメの一品という位置づけで、おでんやら鉄板焼きやらの酒のツマミが豊富にあり、全体として居酒屋に近い。
ちなみに広島では、居酒屋でもラーメンを出す店が少なくない。居酒屋でラーメンを出すというのは、東京の感覚では、まったく考えられない。居酒屋とラーメン屋とは、東京では、完全に別のカテゴリーに属するもので、それが融合したものを見たことがない。
さらに広島では、焼肉屋でラーメンを出すところも少なくない。これも東京の感覚では、まったく考えられないことだが、しかし理解できないこともない。驚くのは、さらに喫茶店でラーメンを出すところがある。寿司屋でラーメンを出すところがある。これらはいずれも、ちょっとしたインスタントラーメンをおまけ程度に出すのではなく、きちんと自分でスープをとった、本格的なものだ。おなじラーメンでも、地域によって、捉えられ方が大きくちがう。
まあその、広島のラーメン屋で、おでんが出てくるので、広島でラーメンを存分に楽しむとなると、おでんをツマミにビールか酒をのみ、そのあと、ラーメンと、場合によってはライスをたのむということになる。広島のラーメン屋では、ギョウザがないくらいだから、チャーハンがないところも多い。ラーメンにつけるご飯物は、あくまでライス、「白めし」だ。
この広島のおでんが、なんともうまい。広島らしい、やさしい味がする。
(※下記の広島おでんの特徴は、高野が広島にいるときに行った、いくつかの店についていえることで、かならずしも広島のおでんすべてが、そのようなものではないことが、コメントをいただきわかりましたので、申し沿えておきますね)
広島のおでんの最大の特徴は、汁が真っ黒なことだ。濃い茶色などではない。ほんとに漆黒、墨のように黒い。これはおそらく、おでん汁を継ぎ足して使っているうちに、汁が熟成してそのような色になるのだろう。家でこの色を再現するのは、土台無理なことだから、残念ながらあきらめるしかない。
次に印象的な、広島のおでんの特徴は、牛すじを入れてあることだ。牛すじの甘い味のだしがたっぷりと出て、これが広島のおでんのやさしい味をつくる、大きなポイントとなっている。
おでんに牛すじを入れるのが、全国のおでんのなかでどれほど一般的で、広島のおでんは、それとおなじなのか、ちがうのか、よくわからない。しかし今回は、広島にいるときしょっちゅう通った、食堂のおばちゃんに聞いたやり方で、おでんを作ってみることにする。
牛すじは、スーパーによっていろんな形で売っている。うす切りになっていれば、そのまま使えばよいし、厚いままなら、適当な大きさに切る必要がある。ほんとうなら串をさしてまとめておかないと、鍋のなかに散乱してしまうことになりかねないが、ひとりで食べるものなら、それはべつに省略してもかまわない。
牛すじからは、とんでもなく大量のアクが出てくることになるから、とりあえず水で10分ほど煮て、汁は全部捨て、牛すじも水でよく洗う。
あらためて鍋に水を張り、牛すじを入れ、途中で水が足りなくなったら、適当に足しながら、コトコト2~3時間煮る。そうすると、今度は澄んだ、おいしいだしが出てくる。
別に和風だしを取る。おでんのばあいは、ちょっと濃いめにだしを取るのがポイントだ。昆布と削りぶしを弱火で2~3分煮出し、ザルにペーパータオルをしいて濾しとる。
おでんを煮る鍋に、牛すじのだしと、和風だしを入れ、日本酒とみりん、それに醤油で味付けする。日本酒はかまわずジャバジャバ入れて、次によく考えながら、適当とおもわれる量のみりんを入れる。最後に味をみながら、慎重に醤油をいれて、好みの辛さにする。
この汁に、下茹でした牛すじと、厚めに切り面取りした大根、そして生卵を殻のまま、よく洗って入れる。
おでんを作るとき、大根と卵を、下茹でしないといけないのは、非常にめんどうだ。こうして初めから汁に入れてしまうので、何も問題ない。
卵も殻の付いたまま、生のところから煮てしまって、きちんと味がしみる。ただ食べるとき、殻をむかないといけなくなるのが、欠点といえば欠点だ。
ちなみにこの、大根と卵の扱いについては、広島流というわけではない。
大根と卵と牛すじは、1時間ほど、コトコト煮る。
あとは、何でも好きな具材をいれる。
練り物や厚揚げは、かならず熱湯をかけ回して、油を落としておく。
コンニャクは、下茹で不要のものを買えば、下茹でしなくてよい。表面に網目状の切り込みを、包丁で浅く入れておくようにすると、味がよくしみる。
タコは、できるだけ大きく切る。今回は、まちがえて小さく切ってしまった。
30分ほど煮て、出来あがり。
火をとめたら、かならずしばらく、そのまま冷やす。置いておけば置いておくほど、味がしみることになる。
広島のおでんの、今ひとつの特徴は、器にもったおでんに、青ネギをたっぷりふりかけることだ。これがまた、なんともうまい。
いうまでもなく、カラシを添える。
酒は、もちろん熱燗。おでんは、熱燗のためにある。