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2011-12-06

芸術を日常に取りもどすためのイベント。
「夜景レストラン」


友人、和田拓治郎氏は彫刻家なのだが、私は彫刻家といえば、ロダンと和田氏しか知らない。大学の教員をしていたのをやめ、芸術一本で生活していくことを決めて、彫刻家としてそれなりに成立しているのだから、大したものだ。和田氏が毎年開いている「夜景レストラン」という個展が、今年もまた開かれることとなり、そのオープニングパーティーと、前夜祭に招待をうけ、広島へ行ってきた。

芸術というと、どうしても美術館や画廊など、日常生活とかけ離れた場で、「鑑賞」することになりがちだ。しかし芸術作品は、日本でも、海外でも、もともとは調度品や生活必需品のひとつであり、人間の生活と切り離れたものではなかった。それ自体が独自の芸術的価値をもちながら、実用性をも、持っているものだったのだ。

和田氏は自らの個展「夜景レストラン」を、その名のとおり、広島市内の5軒のレストランで、3週間にわたって開催する。レストラン内に自分が制作した彫刻をおき、飲食、談笑をしながら、それらを鑑賞してもらうようにする。夜景レストランは、芸術を生活のなかに、取りもどそうとする、和田氏なりの試みで、回を重ねるうちに、社会的にも注目を集めるようになっている。



前夜祭では、和田氏は個展にむけた制作で忙しいなか、一日時間をさいてくれ、広島ラーメンを食べ歩き、また夕食会を開いてくれた。広島の有名グルメサイト「快食.com」の主催者、シャオヘイ氏も同席してくれ、グルメ談義に花が咲いた。快食.comは、広島市内のほぼすべての飲食店を網羅し、広島で食べ歩きをしようと思ったら、必読のサイトとなっている。


夕食会は、広島市内の、和田氏行きつけのそば屋で行われ、ご主人と女将による、心尽くしの料理を堪能した。私も、なにか料理を作って出そうということになり、「檀流クッキング」に掲載されている「イカのスペイン風」と、それを味噌味にアレンジした「イカのわた焼き八丁味噌バター味」を作った。イカは広島中央卸売市場内の、知り合いの仲買い店から、イキのいいのを購入した。


イカの中骨とトンビだけを取り、わたごとブツブツとぶつ切りにし、スペイン風は酒と塩コショウ、味噌バター炒めは、酒と味噌、みりん、それにおろし生姜を混ぜ込み、そのまま30分ほど置いておく。

フライパンに、スペイン風は、オリーブオイルと叩き潰したニンニク、鷹の爪、味噌バター炒めはサラダ油を入れ、煙が立つほどフライパンを熱してから、バターと漬け込んだイカを入れる。あまり火を通し過ぎないように短時間で炒めて出来あがり。


慣れない厨房で、勝手がわからないことも多かったが、女将さんの協力を得て、なんとか皆に、うまいと言ってもらえるものができた。




夜景レストランのオープニングパーティーは、予定数のチケットを完売し、大盛況だった。洒落た雰囲気のバーで、おいしい料理が出され、そこに和田氏の彫刻が、そこかしこに並べられている。生ギターでの弾き語りライブもあり、これまでの、静かな美術館や画廊での美術鑑賞のイメージとはまったく異なった、斬新なものだった。

夜景レストランは、そのポスターも、和田氏を先頭に、夜景レストランを開催する飲食店のイケメンオーナーたちが、さながらパフォーマンス集団かなにかのような風情で、気取ったポーズでずらりと並んでいる。芸術作品が、単に作品としてだけ存在するのでなく、あくまで作者や、協力者たちと切り離れたものではないことを、和田氏が主張しようとしているかのようにみえる。


和田氏の彫刻は、すべて鉄を叩き出したり、削ったり、折り曲げ、溶接したりして作られている。餓鬼をモチーフとしていて、その愛らしく、笑いをさそう姿が、見ているうちについつい、餓鬼の姿を自分に重ね、自らを省みることとなる。餓鬼という、骨と皮ばかりの姿であることが、見る人をしてそこに、自らの想像力で、肉付けさせる力をもつようだ。

夜景レストランの参加者は、それらの彫刻を、飲食や談笑の合間に、手にとり、触りながら見ることができる。彫刻が、あくまで日常の風景の一部であることを、感じ取ることができるようになっている。