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2011-09-11

京都三条会商店街の名店めぐり

他の地域はどうなのだろう、よく知らないが、京都は残暑が復活していて、ここ数日、僕は再びパンイチ生活を満喫している。こないだ「すっかり秋だ」と書いたのだけれど、やはり京都、すんなり秋になぞなってくれるわけがなかった。真夏ほどではないが、気温も35度くらいまでは上がり、蒸し暑い。さすがに蝉は鳴いていないが、その静けさがかえって、残暑の厳しさを増幅させるところがある。

京都は観光都市として有名であるのは、言うまでもないことだけれど、もちろん京都にも、観光客相手ではない、普通の人の生活がある。べつに京都の人が、毎日華やかな京料理を食ってるわけではなく、質素な普通の生活をしているわけだ。

その土地その土地の生活というものは、やはりただ数日、その土地に滞在するというだけでは、決して見えてこない。当たり前の話だが、自分がそこで生活してみないと、見えてくるものではないわけだ。僕はここ何年か、いくつかの土地を転々とすることになっているのだが、そうやってその土地に、そう長い期間ではないけれど、生活してみて、その土地その土地の生活のあり方が見えてくるということは、前にも書いたことだけれど、得がたい面白さがある。


僕にとって、自分の出身地の東京以外の場所で、初めて暮らした経験をした名古屋は、初めてだったということもあり、思い出深く印象に残っている。名古屋というと何となく、「排他的」とか、「全員がドラゴンズファン」とか、「変わった食べ物が多い」とかいうイメージが、僕の場合にはあり、マンションを探すのにも、よそ者に対しては審査が厳しかったりもして、引越し時にはけっこう苦労もした。

名古屋はたしかに、仲間意識が非常に強い場所で、仲間の外側から接すると、弾かれてしまうところがあるのかも知れないけれど、一旦仲間の内側に入ってしまうと、これほど暮らしやすいところはない。名古屋時代は、僕はまだ、毎日のように飲み歩く生活をしていて、家のすぐ近くに、行き付けにしていた飲み屋があったのだが、その飲み屋の常連さんたちとの付き合いは、もう名古屋を離れてそろそろ5年になるというのに、今でも親しく続いている。

その飲み屋へ行けば、今でも家に帰ってきたような迎え方をしてくれるし、飲み屋以外で、当時の常連さんたちが集まるホームパーティーも、定期的に続いている。一旦仲間に入ってしまえば、そのあと多少のことがあっても、仲間の一員にし続けてもらえるということが、名古屋の特徴であるという感じが僕はしている。


京都では、ほとんど飲み歩くことがなくなったから、飲み屋の付き合いはそれほどあるわけじゃないのだが、京都で普通の人の生活を、垣間見たいと思ったら、最適だろうと思える場所が、「三条会商店街」だ。これは僕の家の近くにある商店街で、僕もしょっちゅうここを歩き、飯の材料を買ったりもする。

商店街は、全国的に見ると、衰退する方向にあると言えるんじゃないか。まあ僕は津々浦々を歩いたわけじゃないから、ちゃんと知ってるわけじゃないんだが、西日本の多くの地方都市で、駅前の商店街はシャッターが閉まった店ばかりになってしまい、勢いのないところが多かった。郊外の巨大スーパーに客を持っていかれてしまって、廃れてしまっているのだ。

名古屋にも大須に大商店街があって、そこは10数年前まではシャッターの店ばかりになっていたそうだが、あそこは誰かが音頭を取って、シャッターの店を若い人に安く貸し出すようなことをするようになり、それで若い人がやる勢いのある店が増えて、また最近では大きく盛り返していると聞いている。

京都はそういうことに比べると、商店街が元気な土地柄なのじゃないかという感じがする。市内に多くの商店街があり、それぞれそこそこ活気があるようだ。聞いた話だと錦市場などで、一時スーパーが出店するという話が立ち上がったそうだが、地元で反対して、その話を潰したのだそうだ。

でも商店街が衰退するのは、そこにスーパーができるからというよりも、離れた郊外にショッピングモールができることが、今では大きな理由だろう。京都にもショッピングモールはあるのだと思うが、まあそれでもたぶん、京都の人が、商店街を大切にしているということが、あるのじゃないかと思う。店は地元の人に大切にされなければ、続けていくことはできないわけだもんな。


京都でも錦市場などは、元々は料亭の人が買いに来る卸売市場だったわけで、今でもそういう高級志向が残っているし、さらに観光地としても名所だから、多くの観光客が訪れる。それはそれで、京都ならではの食べ物がたくさん見られて楽しいし、行く価値があることはもちろんなのだが、しかし錦市場に京都の人の日常を見るということは、ちょっと難しいだろう。

それに比べて三条会商店街は、いかにも京都の地元の人が利用する商店街だ。ただ観光客がまったくいないというわけではなく、二条城も近いし、たぶん「京都の地元の商店街を見学する」という趣向で、観光コースに組み込まれているところもあるんじゃないか、外人だとか、観光客だとかが往来することも全くないではなく、したがって若い人向けの洒落た店もけっこうある。そういう新旧のバランスが、三条会商店街はいい感じになっているのじゃないかと、僕などの目から見ると思えるところがある。


三条会商店街で、まず最大におすすめの店は、上賀茂の農家のおばちゃんが出す露店だ。大宮通三条の角に公園があって、その前で店を出している。そのおばちゃんが何とも素朴で、いい人なのだが、このおばちゃんが、すぐきを漬ける農家の人なのだ。


すぐきは上賀茂神社の近くの、100軒余りの農家でだけ漬けられているのだそうだ。どこでも漬けるということは出来ず、すぐきを漬ける室に、特別な菌がいる場所でだけ、すぐきは漬けられるのだとのこと。そのすぐきを、このおばちゃんはシーズンになると、三条会商店街の他の漬物屋と比べても半値から3分の1くらい、観光地の土産物屋などと比べると、もっと安い値段で売っている。一人が2~3日は楽しめるくらいの量のすぐきが、100円とか150円とかで買える。僕はすぐきのシーズンには、おばちゃんを見かけると必ず、ちょっと立ち話をして、すぐきを買って帰ることにしている。

このおばちゃんはすぐき以外にも、聖護院大根だとかきゅうりのぬか漬けとか、あとは各種野菜を、やはり安く出している。そういうものも、どれも安いし、しかもうまい。


三条会商店街には、魚屋もいくつかあるが、僕が行くのは大宮通三条東入ル南側にある、「ダイシン食品店」といところ。このあたりの魚屋は、どこも京都の卸売市場から仕入れるわけで、ネタとしてはそれほど変わらないのだが、ダイシン食品店は仕入れるものの選び方が、わりと主婦目線の、家庭で使いやすいものが選ばれているような感じがする。

またこの店は、やはりおばちゃんが良くて、魚の料理の仕方などを聞くと、嫌がらずに丁寧に教えてくれる。僕はどうもおばちゃん好きで、親切なおばちゃんがいる店は、ポイントが高くなってしまう傾向があるようだ。


この店で売っているものの中で、最大におすすめなのは「さわらの味噌漬け」。これが切り身一つ250円で売ってるんだが、スーパーなどで売ってる西京漬より圧倒的においしい。これは春先のさわらのシーズンになれば、脂が乗って、死ぬかと思うほどうまくなるのは言うまでもない。むつの味噌漬けも450円で売ってるんだが、これは何回か買ってみたが、さわらの方がおいしいと僕は思った。シーズンの問題だったかな。


京都はもちろん、野菜がおいしい。京都のスーパーにも、京都産の野菜は、コーナーがあって置いてあったりはするのだが、京都の野菜を買おうと思ったら、やはり商店街の方が、色々あるし値段も安い。


京都の野菜といえば、唐辛子もいいわけだが、あとはやはりトマト。このトマトは160円だったが、同じような値段で出ているスーパーの他県産のトマトとは、申し訳ないが比較にならない。京都のトマトは、錦市場などに行けば、いくらでも高くてうまいのが売ってるわけだが、そこまで行かなくても、この160円のトマトで十分うまい。


あと三条会商店街には、ダイシン食品店をさらにすこし東に行ったあたりに豆腐屋もあって、その豆腐もかなりいい。京都らしい、シンプルな、上品な味がする、すこし柔らかめの豆腐を売っている。

昨日はここで、ひろうずを買ってみた。ひろうずとは、「飛龍頭」と書いて、要はがんもどきのことなのだが、京都では非常に愛されている食い物の一つと言っていいのじゃないか。


以前ひろうずを炊いた時、炊き方がよくわからず失敗したことがあるのだが、この豆腐屋のおばちゃんに炊き方を聞いたら、僕のやり方は完全に間違っていたことが解った。僕がやったのは、薄味のだしで、ひろうず自体にはもう火は通っているのだからと、短時間だけ炊いたのだけれど、そうではなく、甘辛い味のだしで、コトコト、炊けば炊くほど味がしみておいしくなるんだそうだ。たしかに言われて見れば、おでんの感覚なのだよな。しかしこれを、京都のおでんによくある薄味でなく、甘辛い味で炊くというところが、ひろうずは味が濃いからということだと思うのだけれど、さすが京都は味付け文化の土地柄だ。

僕がそうやって、店先で料理法などを聞いていると、買い物客のおばちゃんが話しに加わってきて、自分の食べ方を一生懸命教えてくれる。これはどこの店へ行っても同じなのだが、そういうことが、スーパーではなく、商店街で買い物をする良さなのだよな。


昨日は三条商店街で買ったさわらとひろうずと、冷蔵庫に入っていたナスをおしたしにし、それからセロリと冷奴で晩酌。ナスのおしたしはゴマではなく、おかかに醤油で食べてみたが、これも非常にうまかった。