「池波正太郎」
に、僕はほんとにハマってしまっていて、いままた新しい本も読んでいるのだけれど、まあそのことは、読み終わったら書くつもりだが、いろいろなことに、すごく影響をうけてしまっている。
池波の独特な文体が、「魔術」かと思うような吸引力があるのと、あとは池波は、若いころとにかく、遊びたおした人だから、遊び方、というのはすなわち、飲み食いの仕方を、「知っている」ということだとおもうのだよな。
それで池波がする飲み食いを、自分もしてみたいと強烈におもってしまうというわけで、なんだか中学生にもどって、ショーケンの真似をして、「給食の牛乳の栓を口であけてしまう」というような、そんな気分なのだ。
「そうざい料理帖」にも出てくるのだけれど、池波はけっこう、「汁物」をさかなに酒をのむということをしていて、どこだかの料理屋で、ふところがさびしかったので、
「鯛の刺身と蛤の吸物」
で酒を一本のみ、そのあと半分残しておいた刺身で、ごはんを一ぜん食べるという、なんともしゃれた光景も登場するし、「三井老人」の家に、「井上留吉」と遊びにいったとき、酒といっしょに
「軍鶏鍋」
がでたというはなしもある。
僕はいままで、汁物というのは、酒をのみ終わってから、「シメ」として食すものであると、なんとなく勝手におもっていたのだが、何もそうでなくたっていいわけだ。
これはいわば、
「ラーメンを食べながら、ビールをのむ」
というような話で、ビールの友は、「キムチとギョウザ」と決め付けずに、ラーメンも仲間に入れてやるというところに、なんとはなしにふところの深い、大人の風情を感じるというわけなのだよな。
というわけで昨日は、グルメシティへ買い物にいって、なにか汁物をつくろうとおもい、いろいろ考えたのだが、どうも
「豚汁」
の気分だったのだ。しかもゴマ油やニンニク、玉ネギなどをつかった、こってりとしたものではなく、いやこちらは池波正太郎なわけだから、だしがしっかりときいた、端正な豚汁が食べてみたいとおもった。
豚肉は、池波正太郎は
「コマ肉」
なのだ。昨日のグルメシティは「一の市」で、京都産の豚バラ肉も、かなり安くでていたのだけれど、ここはあえて、コマ肉をえらんでみた。
野菜をどうするか、これはかなり考えて、まず「ニンジン」は、はやばやと確定。端正な味というと、やはり「大根」もほしいところだ。
豚肉に味噌味というと、黄金の力を発揮する「玉ネギ」は、端正でなくなるから、後ろ髪をひかれながらもパス。そのかわり「長ネギ」。
それに加えて、「ジャガイモ」を入れようかどうしようか、これを入れると、端正さからはちょっとはずれることになるし、かなり悩んだのだが、やはり豚汁に、「ホクホクの」ジャガイモははずせない。
端正さという意味では、ほんとは「豆腐」だが、しかしやはり、汁をたっぷりと吸いこむ「油揚げ」。「ゴボウ」も入れたいところだったが、一本まるごとは多すぎるので、今回はあきらめた。
そこに酒とみりん、隠し味ていどの淡口しょうゆ、それにチューブのショウガで味をつけ、まず豚肉、それからニンジン、大根、ジャガイモ。
アクは、海軍にならって取らない。アクを取るというのは、肉のばあい、ほとんどは見た目の問題であって、
「アクも味のうち・・・・・・」
おいしい肉汁がしみ出してきて、それが煮汁によって凝固したのがアクなのだから、味噌味のようなコッテリとした味付けの場合、取ってしまわないほうがうまいのだ。
5分ほど煮たら、そこに油揚げと長ネギ。
ひと煮して、味噌を溶き入れて出来上がり。
これは、マジで、「劇ウマ」だったです。
酒は佐々木酒造「古都」の冷やを2合半。
「汁物をさかなに日本酒」
これはカナリの新境地を開拓したと、僕は思いました。
ショーケンが、牛乳の栓を口であける現場です。