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2012-03-06

買い出しの楽しみ方。
「菜の花と豚肉の炒め物」「新子のポン酢がけ」


檀一雄は、

「食材の買い出しほど好きな仕事はない」

と書いている。

あちらの魚屋、こちらの八百屋をあれこれ訪ね歩き、日によっては1日に何度も、買い出しに出るのだそうだ。

檀一雄は「火宅の人」だから、家族をおいて家を空け、各地を放浪し、女優と浮名を流したりもしたわけだけれど、家にいる時にはその罪滅ぼしからなのか、家族の分の食事をすべて自分が作っていたそうだ。

檀の家の近くの商店街では、買い物かごを下げ、嬉々として買い出しにいそしむ檀の姿が、たびたび目撃されていたという。



家の近くに店がなかったり、仕事の帰りが遅くなる人は、一週間分の買い出しを休日にまとめてするなどのことをしないといけないのかも知れないけれど、買い出しが楽しいのはまちがいない。

売り場に並んでいる食材を眺めながら、自分が食べたいと思えるものを探し、それをどう料理しようか頭を悩ませることは、料理のプロセスのなかで、最も創造的な部分だといえるのではないだろうか。



料理の初心者は、家でレシピを見て、作る料理を決め、材料を紙に書き出して、それで買い出しに出かけることも少なくないかもしれない。

たしかにそれは一つの方法だから、決して間違っているわけではないのだけれど、「買い出しを楽しむ」という観点からすれば、ちょっともったいないところがある。

買い出しの醍醐味は、「食材との出会い」にある。

食材が、

「自分を食べてくれ」

と呼びかける声が、聞こえてくることがあるものだ。

家で考えていた構想はとりあえずチャラにして、その声に素直に従ってみると、思いもかけぬ新たな世界に、踏み込むことができることもある。



その代表が、「旬」だろう。

旬の食材は、ある日突然、店に現れる。

料理の経験が長い人なら、旬を楽しみに待つこともできるのかもしれないが、経験の浅い者にとっては、旬はまさに、「未知との遭遇」だ。

それまでは存在しなかった、見慣れない、食べ方もわからないものが、突如として売り場に姿を現すことになる。



食材の食べ方がわからないとき、一番いいのは、お店の人に聞いてみることだ。

対面販売の商店なら、すぐに聞けるけれども、スーパーでも、バックヤードに声をかけてみたりして誰かをつかまえれば、かならずていねいに教えてくれる。

家に帰って、教えられたとおりに料理してみれば、まさにおいしい、旬の味覚を味わうことになるわけだ。



一人暮らしが買い出しをしようという時、最も悩ましいのは、食材の「量」の問題だ。

スーパーでも商店でも、多くの場合、食材を一人分では販売していない。

家族で一回分食べるのにちょうどいいくらいになっているから、一人分には多すぎる。

スーパーでも商店でも、言えばバラ売りしてくれることがあるから、試しに聞いてみるのは1つの方法だろう。



あとは、料理につかう食材の点数を減らすのが大事になる。

たとえば野菜炒めを作ろうと思って、キャベツ半玉、もやしとピーマン一袋、それにニンジンなど買ってしまうと、それらのすべてが残ってしまうことになる。

そうなると、その後しばらく、野菜炒めを食べ続けないといけないことになるかもしれない。

それを今日はキャベツ炒め、明日はもやし炒め、明後日はチンジャオロースーと、1点ずつ使えば、食材を使い切りながら、毎日違うものを食べることができるようになるわけだ。



それから、スーパーの場合には、「特売に負けない」ことも大切だ。

値段がぐんと安くなっていると、その日には必要なくても、買わないと損な気がしてしまうことがある。

しかしだいたい、そうして必要もなく、損得勘定によって買ったものは、あとになってもうまく使えないものだ。

結局使い切れずにダメにしてしまうことになりがちだから、特売に食指が動きそうになっても、ぐっとこらえた方がいい。






昨日は家を出た時には、イカの炒め物を作る気だった。

それで魚屋へ行ってみたら、イカが売っていなかった。

イカは雨が降ると、獲れないものなのだそうだ。

その代わりに、「今しか出ない」という、旬の「新子」を勧められたから、それを買った。



大根おろしにたっぷりの新子。

おろしたショウガをのせ、ポン酢をかける。

新子は、「大きめのしらす干し」といった風情。

やわらかい歯ごたえで、いかにも初春の食べ物だ。



あとは豚肉と小松菜でも炒め合わせようかと思っていたら、スーパーに菜の花が安く売っていたから、そちらを使うことにした。

炒めるやり方は、このところハマっている、「肉をまず煮る」方式。



豚こま肉を、昆布に、もしあればネギの青いところ、それからたっぷりの酒をふり込んだ水で、5~10分くらい煮る。

豚こま肉は、豚肉のなかでいちばん安いけれど、多くの場合、脂身がたっぷりで、煮ても固くならない。

ただ店により、もも肉のコマ肉を出していることがあって、その場合は煮ると固くなってしまうから、このやり方は使えない。

スープの味を見て、豚のだしが十分でたと思えるところまで煮たら、豚肉を取り出して、昆布とネギは捨てる。



フライパンに油をしき、まず豚肉をサッと炒める。

油は、サラダ油でもいいけれど、ラードにすると、コクが出る。

先ほどのスープをお玉に2杯ほど入れ、塩1つまみにしょうゆを大さじ2、すりおろしたニンニクとショウガで味付けする。

菜の花と、それにシメジでも入れ、菜の花がやわらかくなるまで、上下を返しながら炒める。

入れようと思っていたコショウを入れ忘れたけれど、入れずに問題なかったし、菜の花の味には、入れない方がいいのかも。



これは非常にうまかった。

ちょっと苦味がある菜の花と、豚肉とがたいへんよく合う。

豚肉は、だしを取っているから、うま味が抜けているといえば抜けているけれど、このところ何度かやってみて、こちらの方がうまい。

炒め物にありがちの「しつこさ」が全くなくなり、しかもラードやスープで味付けすれば、うま味が足りないことはない。

しかもおいしいスープもできるわけだから、まさに一石二鳥とはこのことだ。



スープは塩としょうゆ、すりおろしたニンニクとショウガ、それにコショウで味付けし、わかめを入れた。

ポイントはニンニクで、やはり豚のだしは、ニンニクが足りないとうまくない。

これは簡単にできるけれど、かなり本格的な味がするスープになる。



翌日の「中華うどん」も、変わらずうまい。