2011-10-21

簡単でうまい。絶対おすすめ。檀流「イカのスペイン風」


最近は、商店街で、よく買い物をするようになっている。

買い物に出かけるときは、何を作ろうか、家であるていど考えていく場合もあるが、それをそのまま、忠実に実行してしまうばかりでは、やはりあまり、おもしろいとはいえない。

何を作ろうか、考えるときには、その日店で売っていそうなものを、頭に思いうかべ、「檀流クッキング」や「「そうざい料理帖」のページを、パラパラと眺めたりもしながら、その日自分が食べたいものが何なのか、探っていくことになる。

ところがいざ店へ行ってみると、自分が思いえがいていたものが、売っていないことがある。また、自分が思っていたのと別のものが、もっとうまそうに見えることもある。

そうして、家を出るときには、自分が思ってもいなかったものを、買って帰ることになるというのが、買い物のたのしさといえるんじゃないか。

商店街はその点、スーパーに比べると、店先におばちゃんやおいちゃんがいて、色んなものをすすめてくるから、新しいものにチャレンジする機会が増える。

もし使い方がわからなくても、店の人に、いくらでも念入りにきくことができるのだから、心配がない。



それで昨日は、魚屋へ行ったら、ほんとうは別のものを買おうと思っていたのだけれど、それがなく、スルメイカがいかにも新鮮で、うまそうだったので、そちらを買って帰ることにした。

スルメイカのイキのよさを見分けるのは、色に目をつければよい。まっ茶っ茶であればあるほど、イキがよいことになる。



イカを料理するときには、やはり「ワタをどうするか」が考えどころだ。

イカのワタは、あまりにうまいから、捨ててしまうことなど考えられない。

ちょうど「檀流クッキング」のなかに、「イカのスペイン風」というのがあり、いつかやってみたいと思っていた。

魚屋のおばちゃんが、

「どうやって料理するの」

というから、これこれこうやって、と説明したら、

「それやったって人、聞いたことあるけど、おいしかったって」

と教えてくれた。

魚屋の若奥さんも、イカを、ワタといっしょに炒めたりすると言っていた。味噌で味つけするのだそうだ。



檀流「イカのスペイン風」は、檀一雄がスペインを放浪していたとき、何度も食べ、作り方を目撃してきたものだ。

「プルピートス」という。

この作り方が、なんとも豪快。


イカはかならず、ワタや墨をぬかない、「そのまま」を買ってくる。イカの種類は、ヤリイカ、スルメイカ、モンゴウ、ホタルイカ・・・、何でもいい。


まずイカは、胴のふくろの片側に、ふくろにへばりつくようにして、たてに軟骨がはいっているから、それを取りのぞく。


ふくろの内側を、ちょっとこそげるようにして、軟骨を指でつかみ、そのまま横に引いていけば、きれいにぬける。


それから、イカのくちばしを取りのぞく。くちばしは、足の付根のところにある。


手でほじくり出すようにすると、きれいに取れる。くちばしは、2つある。


そうしたらこのイカを、

「肝も墨も一緒に、ブツブツとブッタ切ればよい・・・」

バラバラ事件。


ぶつ切りにしたイカは、身もワタもごたまぜにして、器に入れ、よくまぜ合わせる。

そこに、「薄塩」をする。昨日は塩をひとつかみ入れてみた。

「生ブドウ酒や酒など」をくわえる。昨日は日本酒を、「じょぼじょぼ」というくらい入れた。

あとはコショウを振る。

これをさらによく混ぜ、15分くらい、そのまま置いておく。


このイカを、フライパンで炒めるのだけれど、調味料は、「押しつぶしたニンニク」と、「丸のまま1本のトウガラシ」、それにバター。

とうがらしは、家に丸のまま1本のがなかったので、刻まれているのを使った。


フライパンにオリーブオイルを入れ、まずニンニクととうがらしを入れ、中火であたためる。これはあとで、捨ててしまってかまわない。


そうしたら、

「猛烈な強火にし、煙が上がる頃一挙にイカを放り込んで、バターを加え、かきまぜれば終り」

となる。

新しいイカは、生のままでも食べられるのだから、あまり火を入れ、固くしてしまうともったいない。


このイカのスペイン風、実際の話、死ぬかと思うくらいうまかった。やわらかいイカに、コクのあるイカのワタが、からみつくのがたまらない。

しかもこれを、オリーブオイルにニンニク、とうがらし、それにバターで味つけするのが、「いかにもスペイン」という感じがする。

僕はスペイン料理を、それほど食べたことはないのだけれど、これを食べた瞬間に、

「これはスペインだ・・・」

と思った。

この食べ物のまわり、半径1メートルは、完全にスペインになってしまう。

「スペイン人は、墨のドロドロをパンにつけながら食べていた」

そうなのだが、たしかに器の底にたまる、オリーブオイルとワタの汁を、パンにつけて食べると、さらに死ねるのはまちがいない。

昨日はパンがなかったのが、返すがえす残念だった。


ただ昨日のこのメニュー、イカのスペイン風だけが、「超スペイン」でギラギラしているのにたいし、ほかのものは、純和風。

墨絵のような、和風の味が、極彩色のスペイン風に圧倒されてしまい、よくわからないことになってしまった。

せっかく「小松菜と厚揚げの炊いたん」も作ったのに、ぜんぜん味がしなかった。