2011-10-20

檀流クッキングに挑戦。「キンピラゴボウ」「オクラのおろし和え」


作家 檀一雄は「火宅の人」で知られ、家庭をかえりみず、女優の愛人をつくり、生涯放浪をつづけたわけだが、料理の腕前が、並大抵のものでなかったことでも有名だ。

檀流クッキング」は、サンケイ新聞に2年間にわたり、毎週1回、檀が自作の料理を紹介したものだが、和食はもちろんのこととして、朝鮮料理、中国料理、ロシアの料理、ポルトガルやらスペインの料理までが登場する。

「料理の腕前は文壇一」

と評する向きもあるようだが、文壇どころか、日本の男性で、料理人でもない素人が、ここまで料理をするというのは、戦前生まれの人のなかでは、まちがいなく絶無、最近では日本人の男性も、ずいぶん料理をするようになったとはいえ、ここまでやる人は少ないだろう。



檀が料理をするようになったのは、檀が9歳のとき、母親が家を飛びだしてしまったからだ。学校の教師だった父親は、昔ながらの日本人男性気質で、料理をするなど考えもしなかったから、檀が一家の料理をつくらねばいけないこととなった。料理などしたことがなかった壇は、商店で買い出しをし、七輪とカマドで煮炊きするようになった。

9歳の子供が、ひとりで買い出しをし、料理をするなど、なんともかわいそうに思えるが、檀にとってはこれが、たのしいことだったらしい。

「当時の思い出の中で、例えば、アンカケふうに片栗粉でトロミをつけることを覚えた時の嬉しさといったらなかった。今でもはっきりとその驚きを覚えている。 
ジャムをつくることを覚えたのも、愉快な思い出の一つである。 
この地上で、私は買い出しほど、好きな仕事はない。あっちの野菜屋から、こっちの魚屋と、日に3、4度は買い出してまわっている・・・」

檀は、

「自分の旅行癖や放浪癖は、買い出し愛好と重大な関係がある」

といっている。

幼少期に買い出しのたのしさを知った檀は、生涯にわたって、日本中、世界中を放浪し、市場へでかけ、その土地の魚菜を買いあさり、その土地の料理の流儀を、見様見真似、さまざまのものを煮たきし、食べることとなった。



「檀流クッキング」をみると、そこからあふれだしてくるのは、そんな檀の、

「料理をすることのたのしさ」

だ。檀流クッキングは、ただ料理についてのエッセイではなく、料理の作り方自体を、くわしく解説したものなのだが、レシピのひとつひとつから、檀が嬉々としながら、買い出しをし、料理する様子がつたわってくる。

僕はいつも、この本を身近におき、しばしば、風呂やトイレで眺めているのだが、昨日つくってみたのは、まずその中でも最も地味な料理である、

「キンピラゴボウ」。

世界中の料理を作る壇だが、冷蔵庫にはいつもキンピラゴボウやヒジキが入っていて、毎食それを取り出しては、ご飯のおかずにしたり、酒の肴にしたりしているのだそうだ。



キンピラゴボウといえば、細く切ったゴボウとニンジンを炒め、砂糖やら醤油やらで味を付け、それにせいぜい、唐辛子を入れたり、ゴマを振ったりするくらいが、定番の作り方だろうが、檀の作り方は、世界の料理の影響だろう、それよりもう少し手が込んでいる。


檀はキンピラゴボウに、「ダシ代わりの肉」を入れる。

「ブタの挽き肉でも、余りものの煮魚をほぐしたものでも、何でもよろしい」

のだ。冷蔵庫に、水炊きの鶏肉があまったのが入っていたから、それを使うことにした。


鶏肉は、小さく切っておく。


ごぼうは、細くせん切りにして、よく水にさらしておく。


ニンジンは、「ゴボウ4、ニンジン1」くらいの割合。これも細くせん切りにする。

キンピラゴボウは、簡単な料理だが、このせん切りだけが、たいへんめんどうくさい。


「少し多い目の油」を熱し、僕はここで唐辛子を入れてしまったが、檀は唐辛子を、

「ゴボウ、ニンジンを炒めるとき入れる」

と、あとから檀流クッキングをみたら書いてあった。たしかにここで唐辛子を入れてしまうと、油に辛みがつくのはいいが、唐辛子が黒焦げになってしまう。


強火で肉を炒める。


ごぼうとニンジンを炒める。

ごぼうとニンジンに油がまわったら、炒めすぎないうちに、味をつける。

「砂糖を入れる。塩を入れる。酢を入れる。淡口醤油を少々加えて、味をととのえれば終わりだが、手早くしよう・・・」

今書きながら、はじめてわかったのだが、檀は、

「キンピラゴボウは、白く仕立て上げるのが好きだ」

と書いている。

だから醤油を多くつかい、ごぼうに色がつくのを防ぐために、「ダシ代わりの肉」をつかって、うまみをつけ、塩を振るということだったのだ。

しかし昨日は、それがわからず、濃口醤油をジャーと入れてしまった。

でももちろん、それでも、味的には問題ない。


強火で火を通し、汁気がなくなってきたら、

「上質のゴマ油を垂らし、白いペパーをふりかけ、タタキゴマを散らせば、それで、よろしい」

のだが、昨日は、家にある「普通のゴマ油」と、「普通の卓上コショウ」、それに「すりゴマ」を使った。




昨日はもうひとつ、檀流クッキングから、

「オクラのおろし和え」

をつくってみた。


「オクラの実を、サッと塩煮して・・・、さあ、時間にしたら、熱湯の中で2、3分か・・・、そのオクラの実をハシから、小口切りにしていって、それを大量の大根おろしの中にまぜ合わせる」

というものだ。

大根おろしとオクラをまぜ合わせたら、

「必ず、しばらく、冷蔵庫で冷やすのが、よろしい・・・」

冷蔵庫で冷やすとたしかに、オクラのネバネバ成分と、大根おろしが一体化し、全体がネバネバとしてくる。

冷蔵庫から出したら、もう一度混ぜなおして、

「レモン酢、ユズの酢、ダイダイ酢など、とお醤油」

をかけるというから、ポン酢のことだろう。

これに、シラスボシやチリメンジャコ、芝エビの塩煮のムキ身、ハマグリのユデムキ、アサリのユデムキなどなど、好きなものを加える。

昨日は、冷蔵庫に入っていたジャコを加えた。

しかし檀によれば、

「芝エビのムキミをまぜ合わせるのが、一番、美しい」

のだそうだ。




昨日はあとは、さんまの塩焼き。

この時期のさんまは、脂がのりまくっていて、たまらん。

しかしさんまも、そろそろ終わりにむかっているようだ。




ハマグリ入りの湯豆腐。

湯豆腐にハマグリを入れるのは、池波正太郎流。


薬味は醤油に、かつお節、青ねぎ。ここに湯豆腐の、昆布とハマグリの出汁がでた汁をくわえ、すこしうすめる。

最後はもちろん、さらに汁をくわえ、吸物がわりにする。




白菜の浅漬。

塩もみした白菜に、唐辛子と昆布を細く切ったのと、酢をくわえ、冷蔵庫に入れておく。




昨日は欲ばって色々つくりすぎて、食事のしたくに1時間半もかかってしまった。

時間も遅くなってしまったし、量もけっこうあったから、早いところ食べてしまおうと、一生懸命食べたら、いつもはコップに2杯のむ酒が、コップ1杯ですんでしまった。

酒はコップ1杯くらいが、ちょうどいいんだよな。