2012-06-01

やればできる。
「天然鯛あらの煮付け」


日付も替わった、深夜の四条大宮。

いつもは行かない界隈に足をのばした僕は、ビルの2階に、怪しい雰囲気をただよわせるバーをみつけました。



ビルは通りに面しているけれど、2階へのぼる階段は、橫の路地を入ったところにある。

看板は、階段の脇に、手描きの小さなものが1つだけ。

その看板には、

「ぼんやり営業中~」

の文句。

ドリンクは300円、フードは200円から。



「変わり者のマスターがやっているに違いない・・・」



どんな店だか、ちょっと覗いてみることにした。



階段を、4~5段あがると踊り場があり、そこにも小さな看板が立てかけてある。

2階へは、さらに階段を7~8段。



ドアを開けると・・・。



マスターは女性だった。



思わず、

「入っていいですか・・・」

とたずねる僕。

女主人のやってる店は、深夜のおっさん一人客は、お断りされることがある。

「どうぞ・・・」

おずおずと中へ。



お客さんは、テーブルにすわる20代とおぼしき女性2人と、カウンターにすわる、やはり20代とおぼしき男性1人。

おっさんは、完全場ちがい。



カウターの端を指さし、

「ここすわっていいですか・・・」

「どうぞ・・・」

店内は、殺風景な味付けがされたアート系。

BGMは、無味乾燥なミニマル・ミュージック。



女主人は、30代前半とおぼしき椎名林檎風。

ショートカットに白い顔。

壁に貼られたメニューを眺めると、酒はビールとワインしか書いてない。

「酒はビールとワインしか・・・」



女主人の白い顔に描かれた細い眉がぴくりと動き、眉間にシワが寄る。

「メニューに・・・」

カウンターに置かれた小さなメニューを眺めると、たしかに焼酎もウィスキーもある。

バーボンの水割りを注文した。



聞きたいことは色々思い浮かぶ。

店の名前が、ちょっと変わっているから、

「どういう意味なんですか」

とか。

「いつから店をやっているんですか」

とか。

メニューの料理に、ゴーヤチャンプルーやソーミンチャンプルー、沖縄の焼酎などが載っていたので、

「沖縄出身なんですか」

とか。



でもどれを聞いても、女主人の眉をぴくりと動かすことになりそうな気がする。



無言で酒を飲む、気まずい時が流れる。



そのうち女主人が語りはじめた。

「無愛想でごめんなさい・・・。

女一人で店をやっているから、男性のお客さんに対しては、どうしても警戒してしまうんです。

でもお客さんは、よさそうな人だから、これに懲りずに、また来てくださいね・・・」



・・・という夢をみながら、おっさんはだまって酒を飲み、お勘定して店をでた。



やればできるじゃん。






いつも午後になると、僕は四条大宮の近くのカフェへ行き、ガラスで仕切られた奥の喫煙席でノートパソコンを広げ、あれこれやります。

壁際の席に陣取り、コーヒー1杯で2~3時間の長居をするのだけれど、店長に、

「いつも長居してすみません」

というと、店長、

「いや、いいんですよ、お客さんがいてくれたほうが、呼び水になってまたお客さんが入ってくれますから」

などといってくれる。



それから買い物。

大宮通を上がり、三条会商店街にでる。

そこから三条会商店街を左に行くとスーパー、右へ行くと、いつもいく魚屋やら豆腐屋がある。



最近は、もっぱら右へ行く。

まずあるのは魚屋。

魚屋へは、何があるか行ってみないとわからないから、

「食べたいものは見つかるのかな・・・」

とちょっとドキドキする。



お兄ちゃんとおばちゃんに挨拶をして、売り場の手前から奥へとひと通り見ていく。

手前にはわりと安いもの、奥にはちょっと高いものも置いてある。

昨日はいちばん手前に天然鯛のあらが250円で置いてあるのが、すぐに目についた。

ひと通り見たけれど、それを買うことにしてお金を払う。



そのまま三条会商店街を歩いて行くと、すぐに豆腐屋があるけれど、

「八百屋を見てから来ますから」

といって通りすごす。

八百屋ではキュウリ。

極太のが3本で100円。

豆腐屋にもどって、すし揚げを2枚。

これで買い物は終了。






ワンルームマンションのキッチンに据え付けられている、1口のIHレンジは、あまりに火力が弱いから、僕はその上にカセットコンロを置き、それを使って料理している。

火を1度に1つしか使えないから、冷めてもいいものから、順に火を通していくよう、心がけている。



まずは昨日半分残しておいた、中国産のアサリのむき身。

時雨煮にすることにする。

フライパンに細く刻んだショウガたっぷりのショウガと、酒大さじ1、みりん大さじ2、醤油大さじ2、砂糖大さじ1を入れ、強火をつける。

沸いてきたら、しばらく待って、すこし煮詰める。

アサリを入れ、ちょっと混ぜたりしながら、汁を一気に煮詰めてしまえば出来あがり。



こうやって、濃い味を付けてしまえば、解凍したむき身のアサリでも、十分おいしく食べられます。



次は鯛のあらをごぼうといっしょに煮付けるけれど、その前にキュウリの下準備だけしてしまう。

キュウリを洗い、上下を切り落としたら、すりこぎでバンバンたたいて、割れ目をいれる。

手で食べやすい大きさにちぎって器にいれて、塩1つまみをふり、よくもみ込んでおく。

これをキッチンの隅においておいて、鯛の煮付けにとりかかる。



ごぼうは半分に折り、たわしでよく洗う。

それを斜めにザクザク切って、水にさらしておく。

鯛のあらは、フライパンにいれ、フライパンをそのまま流しに置いて、給湯器のいちばん熱いお湯を注ぎ込む。

菜箸でちょっとしゃぶしゃぶとしてアクを出したら、湯を捨てて、水で洗い、うろこや血の塊をていねいに取りのぞく。



あらためてフライパンに、まずだし昆布1枚、それから酒2分の1カップ、水1カップ、みりん4分の1カップ、醤油4分の1カップ、砂糖大さじ2をいれ、強火にかける。

沸いてきたら、ごぼうと鯛のあらをいれ、アルミホイルを丸くして、まん中に穴をあけた落としブタをして、強めの中火で10分炊く。



鯛を炊いているあいだに、キュウリを和える梅ソースを作る。

梅干しの、紀州梅など大きいのなら1個、小さめのなら、2~3個を、種をはずし、(もちろん種は舐めてからゴミ箱に捨て)、まな板の上で、包丁でトントンたたいてペースト状にする。

これを器にいれ、かつお節を2分の1パック、うすくち醤油小さじ1、みりん小さじ1を加えてよく混ぜる。

塩をふったキュウリは、水で洗って、キチンペーパーではさんでよく水気をぬぐいとる。

食べる直前に、キュウリを梅ソースで和えれば、梅キュウの出来あがり。



キュウリはいま出始めですし、これをさっぱりと食べるのは、最高にうまいです。



鯛とごぼうは、10分煮たら、落としブタを外して火を強め、煮詰めにかかる。

スプーンで煮汁をすくって、鯛やごぼうの上にかけながら、煮汁がこってりと煮詰まれば出来あがり。



鯛もそろそろ、旬は終わりだと思いますが、さすが天然、雑味のない、すっきりとした味。



鯛の煮付けは、まだフライパンにフタをして入れたままにしておいて、最後に油揚げのはさみ焼きを作る。

ふつうの油揚げなら半分にし、すし揚げは包丁で一方をひらいて、手を入れて中を押しひろげ、袋状にする。

器に青ねぎ1つかみとかつお節2分の1パック、それに醤油を小さじ1くらい入れ混ぜる。

それを油揚げの袋に詰めて、焼き網でさっと焼けば出来あがり。



さっくりとした油揚げを噛むと、じんわりとおかかねぎの味がする。たまりません。



冷蔵庫に備蓄してある高菜漬けも、器に盛って、テーブルにだす。






酒は日本酒常温。

脇においたパソコンをチラチラ見ながら、肴をつまみ、酒を飲む。

「ああ、おいしい・・・」