2009-09-30

昼めし 庚午北「大衆食堂 きたまち」

朽ちかけたボロい外観、家から至近でもあり、いつも気になって、このあまりのボロさに、かなりの引力を感じてはいたのだが、これまで食堂にはあまり興味がなかったのと、勇気もなくて、入ったことがなかったのだ。しかしこのところ、恵美とか、味松とか、食堂に親しむようになったこともあり、行ってみようと思い立ったのだ。

引き戸を開けた瞬間、ちょっと後悔した。整理という観念の微塵も感じられない、物であふれ返った店内、4、5人が座れるテーブルが左右に2卓あるのだが、箸立てだの調味料置きだの皿だの雑誌だののあいだに、鯛の頭の焼いたのとか、さばやさんま、などなどのおかずが、無造作に並べられている。換気が悪いのだろう、そのおかずの臭いが混ざり合い、店内に充満している。お客は6人、ほぼ満員、おいちゃん5人におばちゃん1人、それが昼から、全員ビールを飲み、赤い顔をしていて、将棋なんか打ってる人もいる。僕が戸を開けると、全員こっちをぎょろっと見て、僕が「こんにちは」と言っても相手は無言。僕が何をしに来たのか、すぐにはわからなかったらしい。お客だとようやくわかると、奥にいたおばちゃんを呼んでくれて、なんとか席に座ることができた。

おばちゃんは、85歳、腰が90度に曲がっていて、絵に描いたようなおばあさんだ。もうこの店を始めて44年になると言う。半ばぼけているような感じもするのだが、毎日休みなしで、朝の8時から、夜は12時まで、途中の休憩もなしで営業しているのだそうだ。すごい元気だな。何を食べようか、置いてあるおかずを色々眺めていたら、鶏の脚を焼いたのがあるから、若い人はそれを食べろと言われて、そうすることにした。それに、なすの味噌炒め。

小皿のたけのこと豚肉の炒めたのは、お客のおばちゃんが、自分で作ったのを持ち込んできたのを、僕にもおすそ分けしてくれたのだ。ご飯は「中」というのを頼んだのだが、大きめのご飯茶碗に山盛りが出てきた。

お新香も出てきた。

あとは豆腐とわかめの味噌汁。出来立てでうまい。僕が注文してから作ったようだ。

これでなんと700円。鶏の脚は300円だそうだ。ほとんど原価だな。味はどれもおいしく、まあ完全に家庭の味だよな。これは食堂というより、おばちゃんの家で、お客は家族なんだな。

周りのお客さんはまた、当然僕を1人にしておくはずもなく、自分は昼から酒を飲んでいるが、ちゃんと朝の5時から10時まで仕事をして、それが終わって一杯飲んでるんだ、だの、俺は10代のころから酒を飲み始め、今じゃ毎日、朝から飲んでて、内臓がちゃんと酒を受け入れるように慣れてるから、いくら飲んでも大丈夫なんだ、だの、今の大相撲は八百長ばかりで、今回の朝青龍の優勝だって、そのうち11勝は八百長なんだから、こんな大相撲は俺はもう嫌いだ、だの、さんざん話の相手をさせられて、帰りはまた来てね、また来てね、と言われて店を出た。

いやー、すごいな。扉一枚を隔てた、あまりにディープな世界。まさか仕事の昼休みに、こんな世界を経験するとは思わなかった。今度休日の朝ビールに、ここに来てみるのも悪くないかもな。

きたまち食堂 (定食・食堂 / 東高須、高須、広電西広島(己斐))
★★★☆☆ 3.0