2008-10-06

広島己斐本町 お好み焼き 「さざんか」(再訪)


この店は家からわりかし近いところにあって、広島に来てまだ間もない頃、ちょくちょく前は通るのだが、看板も出ていないし何となく怪しい感じで、とんでもないお婆さんでも出てきたらどうしようと思うと、のれんをくぐる勇気がなかなか出なかったのだ。
しかし実際入ってみると大違い、ママは「はなちゃん」という、昔は美人だったんだろうなと思わせる話好きの72歳の女性で、行くたびに自分の昔話やら店の常連さんの話やら、可愛らしい楽しげな様子で色々話してくれる。

この店、始めて51年になるそうで、元々はママとママの叔母さんと二人で始めたのが、叔母さんが亡くなってママが一人になり、結婚してからはご主人がラーメンを作っていたそうだが、そのご主人も亡くなって今はまたママ一人。
この辺りでいちばん古いのはもちろん、広島市内全体でも、「一代で50年続けているのはうちだけじゃないか」とのこと。
お店というものは店主の意志だけではなかなか続けることはできず、それを支えるお客さんあってのものだから、50年という時間自体が、この店の程度の高さを物語っていると言えると思う。

使っている鉄板も年季が入っている。


きれいに手入れして使っているのだが、長い期間に自然にそうなってしまったのだろう、ちょっと反り返っている。

この店は映画の撮影にも使われている。
映画の主役の正司歌江とママとで写した写真が、店に飾られている。
原爆に関する映画を作るというので、スタッフが舞台となるお好み屋を、広島市内2,000軒、市外1,000軒、すべて見て歩いた末、この店が選ばれたそうだ。
建物自体が古いことはもちろん、すぐそばを路面電車が走り、川が流れ、昔ながらのお好み屋のたたずまいを今に残しているというのがその理由だったという。

さてこの店のお好み焼きだが、普通の焼き方とはかなり違う。
というか、この店の焼き方が、元々のお好み焼きの焼き方なのだろう。
ママは、誰に教わったというわけでもなく皆がやっている通りに自分もやったと言っていた。
それから50年の間にはお好みの焼き方もどんどん変化し、それはママだって当然知っているわけだが、自分のやり方を頑として変えない所が、このはなちゃんママのすごい所だと思う。

焼き方だが、まず鉄板に生地を丸くのばし、かつお節を振りかけると、ソフト麺を袋から出して鉄板におき、ソースを刷毛でちょちょっと付け、ちゃっちゃとほぐす程度ですぐに生地の上に載せてしまう。
キャベツは野菜炒めかと思うくらいの、千切りではなくざく切り、それを一つかみ、それにもやし、青ねぎ、豚肉。
天かすは使わないのだ。
つなぎに生地をちょっと垂らして裏返す。

それからしばらく、ママは両手に持ったコテでお好みを押さえ続ける。
アイロンは使わない。
「手で押さえていれば焼き加減が分かる」のだそうだ。
三八のように水分を押し出すほど強く押さえるのではなく、火の通りを良くするため、という所だと思うが、たぶんアイロンをただ載せておいても、物理的にはあまり結果は変わらないのだと思う。
手で押さえ続けることは「丁寧に心をこめて作る」ということの、ママにとっての表現なのだ。

頃合いを見計らって卵を割り、ちょんとコテで黄身をつぶして、焼いた本体を上にのせる。
しばし間を置いてひっくり返し、ソースはオタフク、それに味の素、白ゴマ。
青のりはかけない。


そば肉玉、650円。

そばを中に入れて一緒に蒸すから、芯まで味が浸みている。
キャベツが大きく切ってあるので、しんなりとした食べ応えが楽しい。
天かすや青のりなど濃厚な味がするものを使っていない分、ソースの味がストレートに出て、何となくしょうゆ煎餅のような風情である。
もちろん最後のひとくちまで飽きることなく、おいしく食べられることは言うまでもない。

さざんか (お好み焼き / 広電西広島(己斐))
★★★★★ 5.0

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