2008-09-23

広島祇園 お好み焼き 「きさや」


店主は、東雲本町のお好み屋「三八」で、10日間であるが修行し、三八の先代、日高光行氏の「弟子」を自認する人である()。
焼き方はたしかに、三八のやり方をきっちり踏襲している。

注文を受けると、鉄板に生地をのばすのと同時に、麺に火を通し始める。
そばの場合は三八と同様、事前に天かすを混ぜ込んであるものを使う。
鉄板に出すと、アイロンを上に置いてそのまましばらく火を通し、ソースを加えて全体を大きく炒める。
麺にしっかりと味を付けるというのが、三八の一つの特徴だ。

魚粉をふった生地の上に炒めた麺をおき、大量の、かなり細く切ったキャベツ、そして天かす、もやし、豚肉を積み上げていく。
そのまましばらく火を通し、ひっくり返す。
途中で向きを変え、火が均一に回るようにしながら、さらに火を通す。

そして、アイロンで上から押し付ける。
三八でやっているのと同様、かなり強く押さえ付け、キャベツから出た水で、鉄板がジューと音を立てる。
卵を割り、押さえた本体を上にのせ、しばらく待ってひっくり返す。
ヒガシマルソースを塗り、ガーリックやコショウなどを配合した調味料、白ゴマ入りの青のり、を振って完成。


肉玉そばシングル、650円。

さて味であるが、このお好み焼き、めちゃくちゃ美味しかった。
僕が今までいちばん美味しいと思っていた、「かんらん車」と同じくらいと思う。
本家の三八より、こちらの方が美味しい。

まず全体が、ふんわりと柔らかい。
三八系の焼き方だから、麺がやわらかく仕上がるという事も大きいが、何よりこれは、キャベツの調整に理由がある。
極細に切られたキャベツは、ほっくり火が通っているのだが、一本一本の歯ごたえがする程度にはみずみずしい。
キャベツの切り方、蒸らす時間、押し潰してキャベツの水分を出す、その力加減、それらの兼ね合いなのだろう。
それが全体として、ふんわりとした柔らかい食感を生み出すのである。

三八では、この店と比較すれば、キャベツに火が通りすぎ、水分が出切っているのだろう、キャベツの食感はあまりなかった。
この店の柔らかなキャベツの食感は、むしろ「一休」と近いのだが、一休では火の通し方が足りないのだろう、キャベツは鉄板上で、時間をおうごとに急速に水分を放出し、ペシャッとなってしまう。
キャベツの調整に関して、この店は三八、一休の上を行っていると思う。

またこれは「三八系の焼き方」というもの自体による事なのだが、このお好み焼きは、具材の全てにソースの味がついている。
麺にソースで味を付けるから、それを載せた生地にも味がつく。
また押し潰すときにキャベツから出た水は、上部に接する麺を洗い、付けられたソースを溶かし出し、それはまたキャベツに味を付けるだろう。
最後に載せられる玉子にも、上からソースが塗られる。
このようにお好み焼きの上から下まで、全てにソースの味が付いているという事が、しみじみとした美味しさを生み出すのである。

かんらん車」だけは別なのだが、一般の「みっちゃん・八昌系」の焼き方では、そうは行かない。
手順上、ソースは最後に玉子の上に塗られるだけだから、麺やキャベツには、直接味が付いていない。
そうすると、どうしても味が足りない感じになるし、またそれが、調味料の多用をまねく原因にもなっているのだと思う。

更に、この店のお好み焼き、味のバランスがとても良いのである。
魚粉やイカ天かす、ガーリックなど、かなり個性の強いものが入っていて、三八ではそれらの味が、一つひとつ個別に感じられた。
こちらにも同じものが入っている訳だが、どうしてなのだろう、それらは個別に突出せず、辛口のソース味と、ピリッと利いたコショウの味のもとに、全体として統合され、調和しているのである。
これはもう、店主のセンスであるとしか、言い様がない。

とにかくこの店、三八系の焼き方のすごみを存分に感じさせる、名店であると思う。

それからこの店、平日の昼にはコーヒーのサービスが付く。


こういう気遣いは嬉しい。
また接客も、全体として大変よかった。

きさや (お好み焼き / 下祇園)
★★★★★ 5.0

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