広島風お好み焼き、なんとも不思議な食べ物ではないか。
ああいう風に重ねながら焼いていくというもの、ほかに似たものを思いつかないのである。
もともとは戦前、一銭洋食といって、鉄板に小麦粉の生地を丸くのばし、上に天かすやネギ、かつお節や桜えびなんかをふりかけて、それにウスターソースを塗ったものが原型らしい。東京で生まれて、関西から広島へと伝わったとのこと。
それならピザでもクレープでも、似たものはいくらでもある。
それが戦後、食糧難の時代、焼け跡の鉄板で焼かれはじめ、時間が経つうちに色々な材料が加わり、進化していったわけだが、関西風ならまだ分かる。キャベツやほかの材料を生地のなかに一緒に混ぜ込み、それを焼く。韓国のチジミがそうだ。
ところが広島風、ああやって次から次へと、上へ上へと重ねていく。そういう発想が生まれ、支持される基盤はどこにあるのだろう、どういうところから思いつき、なぜそれを皆がいいと思ったのかと、とずっと不思議だったのだが、今日、分かったような気がしたのだ。
ハンバーガー。
そして、サンドイッチ。
前の日記にちょっと書いたのだが、たぶん広島は日本のどこよりも、敗戦の衝撃が大きく、そこから立ち直るのに大きな努力を必要としただろう。家族や仲間を一瞬のうちに大虐殺した、憎き敵国アメリカ。しかし今度は彼らと歩調をあわせ、一緒にやっていかなければならない。
そういうとき、たぶん無意識に、アメリカを好きになろうとする気持ちが働くのではないだろうか。
アメリカの料理といえば、ハンバーガーとサンドイッチ。戦後日本でも、アメリカ人がハンバーガーやサンドイッチをほうばる姿を、実際に、または映画などで、見る機会があっただろう。広島風お好み焼きとは、それを広島の人たちが自分たちなりになぞらえていこうとする、なんとも切ない、気持ちの表れだったのではないだろうか。
というわけで、今日のお好み焼き。
家の近所にある、おやじの店。
目がぐりっとした、オールバックにヒゲのおやじさんと、テキヤのおかみ、といった風情のおかみさんがやっている。
地域密着型の店らしく、お好み焼きはサービス満点。
中心部の店だと750円くらいするところ、ここは650円。しかし焼きそばにはひき肉が混ぜ込まれ、大量の青ネギのトッピング。
化学調味料を一切使っていないので、作り方は普通だが、おいしくいただいた。
夜は晩酌セットが、1050円で生ビールにつまみが三品。熱心に営業してもらったので、今度行ってみなければいけないだろう。