2013-01-02

昔ながらの素朴な味。
「芋棒」

元旦のお膳は・・・。
芋棒とお雑煮、堀川ごぼうと紅白のカブ。あとはいつもの魚屋で買った、数の子やら黒豆やらの出来合いのもの。





芋棒は、棒ダラと海老芋を炊き合わせたもの。
棒ダラはタラをカチンコチンに干し上げたもので、1週間、毎日水を替えながら戻さないといけない。もちろんさすがにぼくは、そこまではできないから、魚屋で戻してくれたのを買ってくる。





戻したのを買ってきても、まださらにかなりの手間がかかる。
まず5分くらい煮てアクを出し、水を替えて5~8時間おく。





次に味を何もつけないだしで、4~5時間煮る。
これでやっと、味付けができるようになる。





酒とみりん、砂糖だけ入れ、海老芋と一緒にしばらく煮て・・・。






しょうゆを2回くらいに分けて入れ、さらに煮る。






芋棒の出来あがり~。
これはほんとに素朴な味。タラの独特の歯ごたえとうまみをたのしむ。鮮魚が手に入らなかった昔の京都では、これだけの手間をかけて魚を味わったということですよね。





お雑煮も京都風。
白みそ仕立てで、頭芋(かしらいも)と小芋、祝大根、金時人参を入れる。餅は入れない。




堀川ごぼう。
甘めの味つけにして炊く。





カブもちょうど、紅白になってめでたかった。










いつも一人で暮らしているのだから、正月だからといって食べ物さえあれば、一人で寂しいこともない。
ただ昼から家で酒を飲み、そのあと3時間も昼寝をし、家から一歩も出ずに夜になってみると、ちょっと物足りない気持ちもする。

そこで夜の散歩に出かけることにした。

今日はいつも行くKajuもスピナーズも開いていない。
どこか開いているバーが見つかれば、飛び込みで入ってみようと思った。



蛸薬師通から、大宮通を南に入る。
いつもは賑やかな大宮通も、今日は静まり返っている。

四条通を東へ行く。
駅の近くの飲み屋ビルを見上げると・・・。



バーの灯りが点いている・・・。



あまり行ったことがない店だけど、入ってみることにした。



エレベーターで4階に上がる。
ドアを開けると暗い店内には、マスターと女性客。

女性はカウンターの真ん中で、一人で静かに飲んでいる。
ぼくはカウンターの奥にすわり、芋焼酎のお湯割りをたのんだ。



女性は見たところ40歳前後。
黒く長い髪をまっすぐに垂らしている。

首まわりの大きくあいたピンク色のセーターに、黒いスカート。
黒のストッキングに黒いパンプスを履いている。



マスターと女性が話すのが聞こえる。

「お正月は、実家に帰ったりはしないんですか。」

「いつもは帰るんですけど、今年は仕事の休みが不規則で、こちらに残ることにしたんですよ。」

「べつにお正月だからといって、ただ日が替わるだけですからね。」

「そうそう、そう思えば、べつに寂しくもないわよね・・・」



カウンター奥のスクリーンにかけられている音楽ビデオを眺めながら焼酎を飲むぼくは、どうやって女性と話す糸口を見つけようか考えている。

あまりすぐに話しかけても、ガツガツしているように見られる。
ちょっとしてから話してみようか。

マスターがうまく、話の橋渡しをしてくれるといいんだけど・・・。



とそこへ、ドアが開き、九十九一が入ってきた。
スピナーズでよく顔を合わせる九十九一も、今日はスピナーズが休みだから、こちらへ流れてきたらしい。

「あ、高野さんもいたんですか。今日は行く場所ないですもんね。」

九十九一はぼくの隣の席にすわり、シーバスリーガルの水割りをたのんだ。



それからしばらく、ぼくは九十九一と話した。
九十九一は「おっさんひとり飯」を気に入ってくれ、取引先の人に配ってくれるという。

「年明けすぐに、編集の人に連絡とりますから。」

「お願いしますね。せっかくですから『おっさんひとり飯』、ぜひブレークさせましょう・・・」



九十九一と話し込んでいるうちに、ふと気づくと、女性がお勘定をしている。

白いダウンのコートを着込み、マスターに挨拶をして出ていった・・・。



ぼくはそれを横目で見ながら、マスターに焼酎のお代りをたのんだ。

焼酎は結局5杯飲み、いい気分になって家に帰った。





「せっかくのチャンスだったのに残念だったね。」
チャンスはまたあるさ。