2012-06-15
「焼き鳥」
今日は焼き鳥。
甘辛いタレで食べる焼き鳥が、鶏肉の食べ方として最もおいしいものの1つであることは間違いないわけだけれど、家でやるにはわざわざ串に刺して、炭火で焼くというわけにもいかないから、手軽にフライパンで作る。
フライパンを、べつに油も引かずに中火にかけて、1口大に切った鶏肉を、まず皮から焼く。
こんがりと焦げ目がついたら、1つ1つ箸でつまんでひっくり返し、そこへ一緒にぶつ切りにした長ねぎとシイタケをいれて、表裏を焼く。
しょうゆ大さじ2、みりん大さじ2、砂糖大さじ1、酒大さじ1のタレを注ぎ、強火にして全体を混ぜながら、タレを煮詰めれば出来あがり。
七味をかけて食べる。
山椒をかけてもうまい。
冷蔵庫に小松菜が残っていたから、これを冷凍庫に入っている油揚げと一緒におひたしにする。
洗った小松菜を4~5センチ長さに切り、塩をふった水で2~3分ゆで、水にとってよく絞る。
油揚げは給湯器のお湯をかけて解凍&油抜きし、水をよくふきとって、中火のフライパンに乗っけて表裏を焼き、こんがりと焦げ目がついたら細く切る。
小松菜と油揚げを混ぜあわせ、ちりめんじゃこをふる。
しょうゆをかけて食べる。
さっくりとした油揚げに、しっとりとした小松菜がいい感じ。
ちりめんじゃこも、よい仕事をする。
冷蔵庫にはナスも残っていたから、これは塩もみ。
洗ったナスのヘタを落とし、縦半分に割って、3ミリ幅くらいに切る。
塩1つまみをふってよくもみ込み、5分くらいおいてよく絞る。
ナスの塩もみは、夏場のトップシーズンなら何も付けずにそのまま食べて、死ぬかと思うくらいおいしいけれど、今はかつお節としょうゆで食べる。
でももちろん、これだって十分おいしい。
あとは冷やしトマトにキュウリの浅漬けで、芋焼酎の水割り。
今日は肴の品数が多かったから、思わず4杯飲んじまった。
晩酌の腹ごなしに、千円札1枚をポケットにつっ込み、近所をうろつきまわる「夜の散歩」。
途中の酒場で、酒を1杯だけ飲むことにしている。
先日赤胴鈴之助のバーをみつけ、杏里似のしゃれたお姉ちゃんに酒を誘われて以来、そのバーへ行き、お姉ちゃんと話してみたいと思い続けている僕なのだけれど、
「あまり意識しすぎるのはみっともない・・・」
と、努めて平静を装うようにはしている。
今日も家を出て、まずは鈴之助のバーとは反対方向の四条大宮へ。
飲み屋をひと通り偵察し、とくべつ変わったことは起きていないのを確認したうえで、ようやく目的地へむかって歩きだす。
鈴之助のバーに近付いても、わざと遠回りをして、ほかにいい店がないか念のため点検する。
時間をかけ、この店に来るしかないことを十分納得した末に、やっとバーの入口を中に入った。
先客は、男女の2人連れ。
清原似の、陽に焼けて黒い顔をした男性は、長く茶色い髪をうしろに流し、頭の上にヘアバンドよろしくサングラスをかけている。
薄いグレーのスーツに黒いシャツ、扇子をひろげパタつかせる。
女性も長く茶色い髪をふわりとさせ、白っぽいやわらかそうな服を着ている。
「いかにも遊び人・・・」
祇園で飲み、家に帰る途中にこのバーへ寄ったらしい。
2人連れはカウンターの端に陣取っていたから、僕は反対側の端にすわる。
「ここに座れば、杏里似のお姉ちゃんが来ても、まん中に座ってもらえる・・・」
マスターは、おととい来たばかりの僕のことをもちろん覚えていて、にこやかに迎えてくれる。
注文したウィスキーの水割りをつくるマスターの顔を、あらためてよく見てみると、さすが京都人らしい、切れ長の目に通った鼻筋、小さな口で、赤胴鈴之助というよりは、五月人形の金太郎に似ている。
祇園のバーにバーテンとして10年以上勤め、1年前に独立したそうで、酒も洋酒ばかり、100本以上は置いてあるし、バーテンとしての立ち居振る舞いも胴に入って、かなりの実力派と見受けられる。
辺鄙な場所にある店だけれど、祇園時代のお馴染みさんがこちらへ来たりもするのだろう。
水割りを僕の前におき、マスターは僕に話しかけてきた。
「お客さんがおととい来られて、そのあと、昨日のことなんですけれど・・・」
「お、キタ・・・」
おととい来たとき、いっしょにいたのは杏里似のお姉ちゃんだけ。
僕に関係することが、何か昨日あったのならば、お姉ちゃんも関係しているに違いない。
お姉ちゃんが、僕のことを何か言っていたのかも・・・。
「以前あんかけパスタの話をしてくれたお客さんが昨日来たので、
『別のお客さんも、あれはおいしいと言っていました』
と言ったら、
『たしかにおいしいから食べてみろ』
と言ってましたよ」
「おいおい、そっちかい・・・」
やはり昨日は、来なくてよかった。
あんかけパスタの話はしたくなかった。
そこへ入口から、お客さんが入ってきた。
「来たか・・・」
「仕事でトラブっちゃって、これはキツイわ・・・」
と言いながら入ってきたのは、お姉ちゃんではなく、イチロー似の若い男性。
前髪をトサカのようにおっ立てて、黒いステッチのはいった白い長袖のシャツを着ている。
お姉ちゃんが座るはずだった、カウンターのまん中に席をとった。
それからは、イチロー似のお兄ちゃんのオンステージ。
さすが関西人、話がおもしろい。
「オレは嫁から、『あなたはどうしてまっすぐ帰って来られないの』と、言われつづけたいとおもってる・・・」
「若い世代は『飲みニケーション』などという言葉は死語で、『どうして上司と飲みに行って仕事の話を聞いて、それでおまけに肝臓まで悪くしないといけないのか』と堂々という奴もいる・・・」
「出世観音が引っ越してしまうそうだけれども、そうすると、そこに何千円かつぎ込んで、順調に出世してきたオレの会社人生も、これから下り坂になるんじゃないかと心配だ・・・」
マスターがうまく場を作ってくれるおかげで、僕も話を聞きながら、何度か大爆笑をし、イチロー似のお兄ちゃんとすこし話もして、楽しい時間をすごした。
やがて水割りを飲み終わった僕は、お勘定をし、幸せな気分で家路についた・・・。
でも、杏里似のお姉ちゃんは来なかった。