2011-12-27

濃厚なハマグリの出汁は、二日酔いにもいい。
「ハマグリの粥」


縄文時代の貝塚から出土する貝殻は、ハマグリなのだそうだ。ハマグリは河口付近の浅瀬に生息するから、特別な仕掛けなどもたない縄文人でも、海へ行って拾うことができたのだろう。それ以来、ハマグリは「日本を代表する貝」といわれながら、水質汚染の影響をうけやすいため、日本ではもうほとんど、絶滅の危機に瀕しているそうだ。

1年のハマグリの漁獲量が、日本では数百トン程度しかないところ、中国産のハマグリは、その100倍、数万トンがあるそうだ。日本のハマグリは、中国産とはすこし種類がちがうようだが、もう庶民の口に入ることは、ないといってもいいのだろう。



昼飯になにを食べようかと、魚屋をのぞいてみたら、箱に詰められたハマグリが、安い値段で、山ほど出ていた。もちろん中国産だろうけれども、べつに中国産がまずいわけではないから、問題はない。

ハマグリは、なんといっても、出汁がうまい。アサリやシジミも、それぞれうまい出汁をだしてくれるが、ハマグリの濃厚で、品のある出汁にはかなわない。ハマグリの出汁に匹敵するのは、あとは鯛くらいのものなのじゃないか。

昼飯には、昨日の酒で二日酔いだったこともあり、ハマグリの粥にすることにした。ハマグリの出汁は、詳しいことは分からぬが、アルコール漬けの身体に、何かいい作用をしてくれるような感じがする。



魚屋で、いちおう砂出しはしておいてくれているとのことだったが、念のため家でも、1時間ほど、塩水につけておく。塩水の濃さは、よく100ccの水に対して、塩3グラムと書いてある。この3グラムの塩が、スプーンでいうとどのくらいだか、さっぱり分からないのだが、3%の塩水というのは、要は海水とおなじくらいの濃度という意味だ。だから塩を水に適当に溶かしてみて、それを味見して、むかし海水浴で、海の水を飲み込んでしまった時のことを思い出し、それとおなじくらいの塩辛さに調整するようにする。ハマグリ君たちは、自分がいつも住んでいる場所と、おなじような状態になるものだから、安心してくつろいで、砂を吐き出すことになるわけだ。

貝を砂出しするときは、フタをして暗くしておくと、やつらはさらに安心して、砂を吐き出すようになる。フタをいきなり開けると、アサリなどの場合には、ずいぶんと長く伸ばした口の部分を、驚いてさっと引っ込めたりする。アサリによって、敏感と鈍感なやつがいるみたいで、フタを開けただけで、さっと口を引っ込めるやつもいるかと思えば、そのままのやつもいる。少しゆすぶったりしても、まだそのまま口を伸ばしたままの、ボケたやつも中にはいるところが、人間を見るようでおかしい。

しかしハマグリは、あまり口を伸ばしたりはしないみたいだ。ハマグリの砂出しをしても、砂は吐き出すのだけれど、口を伸ばしているのを見たことがない。

砂出しが終わったら、貝殻をこすり合わせるようにしてよく洗う。貝の表面に付いているヌメリを、ていねいに取るようにする。



粥は、生米から炊く。よく洗った生米を、5~6杯量の水にひたしておく。その時昆布をいっしょに入れておく。昆布は30分から1時間程度も、水にひたしておけば、もうそれで出汁はでているから、火にかける前にとり出してしまう。



今回ハマグリといっしょに粥に入れることにしたのは、大根。貝の出汁は、魚や肉の出汁にくらべると、ずいぶん淡いから、クセのある味の野菜を入れてしまうと、まったく台無しになってしまう。長ネギやしめじなどでも、味が強すぎるのじゃないかと思う。

大根は、すぐ火が通るように、細めに切っておく。



昆布をとり出した鍋に、大根とハマグリを入れ、火にかける。すぐにアクが出てくるから、これはていねいにとり除く。

そのうち貝が開いてくるから、開いたらすぐ、救出し、皿にでも入れておく。日本産のハマグリはだいじょうぶらしいが、中国産のハマグリは、煮るとあっという間に、小さく縮んでしまう。

ハマグリは、今回は見た目が豪華に見えるから、もどすとき、貝殻はそのままにしたけれど、食べやすさを優先するなら、むき身にしてしまったほうがいい。

ハマグリは、中国産だからかどうかしらないが、死んでいるやつが多い。煮ても貝がひらかないのは、死んでいる証拠だから、それは使わない。ただハマグリの場合、ずいぶんたってから、ようやく口を開けるやつもいるから、なかなか口が開かなくても、ある程度はちゃんと煮てみるようにする。



味付けは、まずは日本酒。日本酒は、塩分が入っている安い料理酒じゃなく、かならず塩分の入っていない、ふつうの日本酒を使う。鬼ごろしとかの、安いやつでいい。これを、ドバドバ入れるのではなく、ちょっと控えめに入れる。酒もあまり入れすぎると、ハマグリの出汁の味を殺してしまうことになる。

それから塩。塩もくれぐれも、入れすぎないのが肝心だ。料理は何でもそうだが、塩を入れすぎると、取り返しがつかない。はじめは「足りないかな」というくらいにしておいて、最後にもう一度味見をし、味を決めるようにする。

とくにハマグリなど貝の場合、貝自体に塩気があるから、まずなにも入れずに味見してみて、それから塩を入れるようにする。

あとはうすくち醤油。これもハマグリの出汁の味を殺してしまわないように、ほんの風味づけ程度、少なめに入れるようにする。



あとは15分ほど煮て、米と水気の加減が好みの具合になってきたところで、ハマグリをもどし、器に盛って、三つ葉をふる。



ハマグリの出汁は、なんともうまい。