魚屋で、たらのアラを分けてもらったとき、ずいぶんな量だったから、食べきれなかったらほかにどういう食べ方があるのか、若大将にきいてみた。そうしたら、
「じゃっぱ汁」
にしたらいいという。
じゃっぱ汁とは、津軽の郷土料理で、「あら汁」のことだ。津軽では、たらが大漁のときに、浜で女たちがそれを待ち受け、その場でじゃっぱ汁をつくるのだとか。
京都でふつうに、じゃっぱ汁を食べるものなのかどうか、若大将にききそびれたが、魚屋だから、全国の魚料理に通じているんだろう。
「大根は、細く切って」
と、細かい指定までしてくれた。
たらのアラ。
これは、もしふつうに買ってきたものなら、塩をふり、しばらくおいてから、よく水洗いする必要がある。
今回は、魚屋で塩をふってもらったのを持ちかえってきたから、水洗いして、冷蔵庫に入れておいた。
じゃっぱ汁はもちろん、たらにかぎらず、鮭でも鯛でも、好きな魚でつくったっていいわけだ。
たらは臭みがあまりないから、塩をふり水洗いするだけでいいが、それ以外の魚をつかうときは、さらに湯通ししたほうがいいだろう。
野菜は、
「細く切った大根と、長ネギ」
というのが、若大将の指定だ。
もちろんこれも、冷蔵庫にあるあまった野菜を、どんなのだって入れたらいい。
鍋に水を張り、昆布をひたしておく。
鍋を火にかけ、沸騰したら昆布をとりだし、たらと大根を入れる。
ここで酒を、「ドバドバ」と入れておく。
アクをとりながら、しばらく煮る。
味付けは、まずみりんを少々。
火を止めてから、味噌を溶かし込む。
味が決まったら、ひと煮立ちさせて出来あがり。
たらの上品な出汁がでた、しみじみとした味。
こうやって汁にして、魚の骨まで食い尽くしてしまうというのが、家庭料理の基本なのだよな、やはり。
晩飯は、豚肉の水菜の鍋。
水菜は、一時300円ほどもしていたものが、ようやく値が落ちつき、スーパーの特売では、78円で売られるようになった。
豚肉は、池波正太郎にならい、いちばん安いコマ肉をつかう。
豚肉と青菜は、黄金の取合せだけれども、またこの水菜の、シャキシャキした食べごたえが、もっちりとした豚肉と、よくあうわけだ。
タレはポン酢に、大根おろしと青ネギ、それから一味唐辛子。
冷や酒を2合飲む。
豚の出汁がたっぷりとでた残り汁を、塩コショウで味付けし、雑炊にするのが、たまらない。
毎週通っている、近所のラーメン屋。
体調不良で休んでいた大将が、1ヶ月ぶりに復帰した。
1ヵ月ぶりに食べる、大将のつくった、大盛ラーメン。
大将が休んでいるあいだは、大将のかわりを、直弟子である若いお兄ちゃんがつとめていた。お兄ちゃんも一生懸命やっていて、べつにまずいとも、おもいはしなかったのだけれど、やはり大将がつくったラーメンは、全然ちがう。
麺のゆで方ひとつとっても、「これ以外ない」と感じられるポイントを、外すことなく突いてくる。
全体として、「せまってくる度合い」が、はるかに高い。
大将も、直弟子のお兄ちゃんも、ラーメンの作り方を、「レシピ」としてみれば、おなじようにやっているはずだろう。
それなのに、味がこれだけちがうというのは、料理がただ、レシピによってだけ決まるものではないということだ。
料理がそういう、奥深い世界をもつからこそ、毎日つくっても、飽きることがないのだな。