2011-10-09

徹底解説。ぶり大根の作り方


魚のアラは、安くて、しかも切り身の部分よりよほど脂がのっていて、炊いて食べるにはこれほどいいものはないわけだけれども、中でもブリは別格だ。

脂がのっているとはいえ、アラも普通は、炊きすぎるとパサパサに固くなってしまうものだが、ぶりのアラは40~50分炊いても、脂が抜けてしまうことはない。だから大根に、じっくりと味を通すのに、まさにうってつけというわけなのだ。

しかもぶりから出る出汁の味は、大根と何ともよく合う。「魚と野菜の取り合わせは、同じ季節の物同士がうまい」と聞くが、まさに冬の魚であるぶりと、冬の野菜である大根は、ベストカップルといえるだろう。

「ぶり大根」が1つの固有名詞になっているのは、それだけの理由があることなのだ。




ぶりのアラは、だいぶ高く売っている店もある。でもいくらうまいとはいえ、本来廃材であるものを高く売ろうとするのは、庶民の足元を見たおこないだろう。アラを安く出すかどうかが、魚屋の善し悪しを見分けるための1つのポイントと言ってもいいのじゃないか。

それからアラは、古くなると臭みが出やすいから、やはり艶がありプリプリした、新鮮なものを購入したい。


昨日魚屋で聞いたら、ぶりのアラには、使う前に塩を振ったほうがいいそうだ。今まで塩を振らずに何度となくアラ大根を作り、問題を感じたことは一度もなかったが、やはり魚は、使う前に塩を振るのが、基本といえることなのかもな。塩を振ったら30分くらい放置する。


湯通しはきちんとやる。鍋に湯を沸かし、火を止めてからアラを入れるようにしてもいいが、80度くらいの温度があればいいのだから、給湯器を最大温度にして、蛇口から出るお湯をそのまま使っても問題ない。


湯通ししたら水で洗い、血の塊やぬめりを丁寧に洗い落とす。アラを料理しようと思ったら、この湯通しと水洗いは、臭みを取るための最大のポイントだ。


大根は、昨日は15分ほど下茹でしてみたら、かなり柔らかめに仕上がった。柔らかめの大根が好きな人は、下茹でしたらいいと思うが、少し歯ごたえがあったほうがいいと思う人は、下茹でしないほうがいいんじゃないかと思う。


鍋に大根とぶりを入れる。この時ポイントは、大根を下にすることだ。汁が煮詰まっても、大根がいつも汁の中にあるようにすることで、大根に味がきちんとしみることになる。


ぶり大根のポイントの1つとして、「酒をできるだけたっぷり入れる」というのがある。広島で僕が通い倒した食堂「恵美」のおばちゃんは、「酒だけで煮てもいい」と言っていた。さすがに僕も、そこまでは勇気がないが、酒と水とを、大体半々くらいになるようにする。

酒はもちろん塩分の入っていないもの。塩分の入った、安い料理酒ではダメだ。塩分が入らない酒は、酒税がかかってくるので値段が高くなるが、アラが安いのだから、こちらにはお金をかけたい。


酒を入れ、ぶりがヒタヒタになるまで水を加えたら、強火にかける。ここで大量のアクが出てくるが、これは「親の仇」かと思うくらい、徹底的に取る。徹底的なアク取りは、ぶり大根の臭みを取るために、絶対に必要なのだ。


アクを取ったら、まず砂糖とみりんだけを入れ、10分ほど煮る。甘みと塩分が同時にあると、分子の大きさが小さい塩分だけが先に入り込んでしまい、それが甘みが入り込むのを邪魔することになる。だから必ず、初めは甘みだけ入れるようにする。

砂糖とみりんの量だが、これは自分の直感を信じて、適当に入れる。甘みをたくさん入れればコッテリするし、少なめに入れればあっさりめになるだけの話で、これは完全にお好みしだいだ。昨日はスプーンに山盛り3杯くらいの砂糖と、みりんを、「じゃばじゃばじゃば」というくらい入れた。

煮るときの火加減は、中火程度で、きちんと沸騰するくらいにする。


10分したら、醤油を入れる。醤油を入れるときは、適当ではなく、味を見ながら慎重にやる。

まず初めは少なめに入れ、まだまだ甘すぎるくらいの味加減にして20分くらい煮る。初めから醤油を全量入れてしまうと、甘みが入りにくくなってしまうのだ。20分くらいたってから、さらに醤油を入れ、きちんと味を決めて、また20分くらい煮る。


煮るときは、かならず落し蓋を使う。なければアルミホイルやクッキングシート、キッチンペーパーなどでもいい。火加減は中火で、煮汁の泡が、きちんとぶりの上にかぶるくらいに調整する。

煮時間は、全体で40~50分。アラ自体は「半時間も炊けば十分」(魚屋のおばちゃんによる)なのだが、あとは大根が柔らかくなり、味がしみればいいだけの話だ。


煮汁が減り、ぶりは煮汁の上に出ているけれども、ぶりの下に敷いてある大根は、まだ煮汁の中にある、というくらいの状態になったら火を止める。火を止めたら、かならず30分程度は、このまましばらく放置して、冷ますようにする。冷める時に、大根の中に、味が思い切り入っていくからだ。

一旦冷ましたら、また温めなおして器に盛る。




ぶり大根の作り方にも色々あって、実は僕は今まで、「コトコトと」炊いて、汁を煮詰めないやり方をしていたのだが、今回は煮詰めるようにしてみた。そしたらこちらのほうが、圧倒的にうまい。

京都の魚屋のおばちゃんは、「半時間ほどぶりだけを炊いたら、その煮汁を別鍋にとり、少し水で薄めて、下茹でした大根を煮る」というやり方を教えてくれる。京都の人にとっては、大根に濃い色がつくのは、許せないことなのだろう。でも僕は野蛮な関東人だから、これでまったく問題ない。というか、むしろ大根に濃い色が付いている方が好きだ。