2011-10-08

ちょいと昼飯。アサリと大根の粥


池波正太郎の食のエッセイには、うまそうなものが数多く登場するのだが、そのひとつに「浅蜊のぶっかけ飯」がある。

「浅蜊のむき身を繊切りにした大根と、たっぷりの出汁で煮て、これを汁と共に温飯へかけ、七味トウガラシを振って、ふうふういいながら食べる」

というもので、いかにも簡便さを好む東京の、それも下町の風情が感じられ、池波少年や家族の人達が、お膳を囲みながらこれをかっ込む様子が、目に浮かんでくる。



これを池波の書いている通りに作ってもいいのだが、一人暮らしの酒飲みにとっては、ご飯を炊くのが面倒くさい。晩酌ではご飯は食べないし、朝や昼もほとんど麺類で済ませてしまう。それ以前にだいたい、炊飯器というものを持っていない。

ぶっかけ飯を作るのに、わざわざご飯を炊くとなると、この簡便さを旨とする食べ物が、ちっとも簡便ではなくなってしまう。

そこで手っ取り早いのは、お粥にすることだ。

お粥は冷やご飯がある家庭にとっては、そこから炊けば早いが、ご飯を炊かない家にとっては、生米から炊いた方がよっぽど簡単だ。要は水にひたした生米を、好きな柔らかさになるまでグツグツ煮ればいいというだけの話で、ぶっかけ飯がわりの固めの粥にするのなら、時間もそれほどかからない。

好きな具を何でも一緒に炊きこんで、雑炊にしてしまえば、おかずやら味噌汁やらを作る手間も省け、しかもなんだか、ちょっと豪華な感じがする。




よく行くスーパーグルメシティには、中国産のアサリのむき身が、激安価格で売っている。むき身にしたアサリを冷凍し、それを解凍したものなど、大した味がしないに決まっているし、「中国産」だと大丈夫なのか、不安がないではない。でも昼飯にちょいとお粥にするには、これで十分だ。

もちろん普通に貝のままのアサリを買ってくれば、もっとうまいのができるのは言うまでもない。


米は研いで、よく水を切り、5倍量の水に昆布と一緒に浸しておく。無洗米を使う場合は、水は5倍よりちょっと多めにしておく。


鍋を火にかけ、煮立ったら昆布を取り出し、アサリと千切りの大根を入れたら味を付ける。

味付けはごくごく淡く、吸い物程度にしておかないと、アサリの淡い風味が台無しになってしまうし、色も悪くなる。酒とみりん、醤油をほんのちょっとずつ入れ、あとは塩で味をととのえる。

アサリはあまり煮ると、固くなってしまいそうに思うが、そんなこともない。丁寧にやるなら、煮出したアサリを一旦取り出すようにしてみても良いかもしれないが、べつにそんなことをしなくても、十分おいしく食べられる。

味付けしたらフタをして、弱火でコトコト煮る。好きな柔らかさになったら、青ネギと七味を振って食べる。

素朴なアサリの風味に、大根がまたよく合い、しみじみとうまい。



他によくやるのは、「鶏粥」。


作り方はアサリの場合とまったく一緒。昆布を取り出したら、適当な大きさに切った鶏肉と、薄切りにした玉ねぎを入れる。

味付けはたっぷりの酒に塩。青ネギとコショウを振って食べる。



「シーチキン粥」もやってみた。


作り方はまったく同様。シーチキンを油ごとと、薄切りの玉ねぎ。最後に卵で閉じる。

酒に醤油を入れてみたが、醤油は必要なかったかも。シーチキンに十分な旨みがあるし、色も悪くなる。




晩飯にはブリを焼いた。漬け焼きにしようと思っていたのだが、魚屋のおばちゃんに聞いたら、「それでは真っ黒になってしまう」とのこと。ブリを焼いたのを、あとからタレに浸すようにした方がいいというから、言われた通りにしてみた。


ブリは塩も振らず、そのまま焼く。


表裏をこんがり焼いたら、酒、みりん、砂糖、醤油で好きな味に調整したタレに浸す。「5分も浸せば十分」だ。途中で一度ひっくり返す。

これをもう一度、弱火で炙り、香ばしい匂いがしてきたら出来上がり。




あとは冷奴にナスの塩もみで、酒を2合。

脂ののったブリに、甘辛いタレの味がするのは、しみじみうまい。