巷の料理本を見ていても、
「一人暮らしのための料理」
と考えると、あまり役に立たないものが多い。
一人暮らしが料理をするという場合、やはり基本は
「料理に取りかかってから、調理器具を洗い、食べ始めるまで30分以内」
ということじゃないかと思うのだよな。
いやもちろん、料理が楽しくなり、興がのれば、2時間だって3時間だってかけたらいい。
でもそうでなく、疲れて家に帰ってきて、
「さあ食うぞ」
となってから、実際に食べ始めるまで、1時間とか掛かっていたら、一人暮らしが料理を続けることは難しいだろう。
◆ 一人暮らし料理の基本条件
そうなると、まず
「白めしはほとんどアウト」
だ。
白めしを30分以内に炊き上げることなど、ほとんど不可能だからだ。
だから炭水化物を白めし以外でとらないといけないことになる。
それから、洗い物をできる限り少なくしたい。
食べ始める前に使った調理器具は洗ってしまうことになるのだから、その時間も含めて「調理時間」と考えないといけない。
そうすると
「料理の品数をできるだけ少なくしたい」
ことになる。
品数を少なく、できれば一つの鍋やフライパンで調理でき、炭水化物を米以外でとる料理。
そしてできれば、酒のつまみになってほしいだろう。
そういう料理の代表選手が、
「しょうゆ焼きそば」
なのだ。
◆ しょうゆ焼きそばの長所
一人暮らし料理として、しょうゆ焼きそばが優れている理由。
それはまず、
「フライパンひとつで作れる、肉から野菜、炭水化物までをすべて含めた料理である」
ということだ。
しかも調理法は非常にシンプル。
- 肉を炒める
- 野菜を炒める
- タレを注ぎ込む
- 麺を炒める
調理時間そのものは、ものの10分くらいしかかからないだろう。
下準備やら洗い物やらの時間を含めても、どんなに不慣れで鈍くさくやったとしても、30分以内にはかならず収まる。
そしてこれが、驚くほど酒のつまみになる。
日本酒には合わないのが難点なのだが、ビールでも焼酎でも梅酒でも、バッチリ合うことは請け合いだ。
さらに、このしょうゆ焼きそばは、
「応用範囲が非常に広い…」
味付けは同じでも、肉や野菜は何でも好きなものに取り替えられる。
毎日食べられるとは言わないが、一日おきに食べてもだいじょうぶだと思うくらいだ。
ここで一つ疑問がわく人がいるかもしれない。
「ソース焼きそばではいけないのか…」
いいかもしれない。でもわからない。
僕はあまりソースが好きではないので、家で一度も作ったことがないのだ。
ソース焼きそばが好きな人は、この後の作り方のところで、タレをソースにしてもらえばいいというだけの話だ。
ただたぶん、「応用範囲」については、しょうゆの方が優れているんじゃないかという気はするが。
◆ しょうゆ焼きそばの材料
材料は豚コマ肉、長ネギ、焼きそば麺、それにしょうゆダレ。
豚コマ肉の分量は、好きなだけでいい。
ただこの写真の分量は、150グラムくらいあるのだけれど、一人分にはちょっと多すぎた。
半分でよかったな。
豚コマ肉は、つながって大きなままの場合があるから、適当な大きさに切っておく。
長ネギは、今回は白い部分だけだが、青い部分があれば、それもそのまま使う。
青い部分も、炒めればそれなりにおいしいものだ。
これは斜め切りにしておく。
タレの材料は以下のとおり。
- 酒
- しょうゆ
- チューブのニンニク
- チューブのしょうが
分量だが、
「計量スプーンでいちいち計ると、とたんに料理がつまらなくなるから、しないほうがいい」
のだ。
調味料の分量については、あらためて詳しく論じたいと思うところだが、
「計量スプーンは買わない」
ことをすすめる。
もっている人は捨てよう。
計量スプーンは、炊飯器にならび、料理をつまらなくする元凶の一つであると僕は思う。
上の調味料の中で、酒とニンニク、しょうがについては、量が多くたって少なくたって、大勢に影響はない。
微妙な加減もないことはないが、それはやりながら見つけるというので十分だ。
問題は
「しょうゆの分量」
だ。これを間違うと、味が大きく変わってしまう。
まず知っておく必要があるのは、
「しょうゆは『少ないかな』というくらいにしておくのが大事」
だということだ。
「少ないかな」と思うくらいにしておいて、実際食べてみるとちょうどいいものなのだ。
それに、塩味は多すぎるとどうしようも修正が効かないが、少ない分にはただあとから塩をふればいい。
少なめにしておけば、何も問題ないわけなのだ。
しょうゆの分量を決めるには、
「材料をよく見て、それにしょうゆをかけるとしたらこのくらい、というのをイメージしながら器に入れる」
ようにする。
よく目玉焼きとかにしょうゆを掛けるだろう。あの要領だ。
漠然と器にしょうゆを入れるのではなく、材料の分量をきちんとイメージする。
僕は器にしょうゆを入れるときも、「しょうゆを回しかける」のをイメージして、手を丸く動かしながら入れている。
そうするとそれほど大きく外れないものだ。
ただそうは言っても、しょうゆを入れすぎることは多い。
何を隠そう、今回のこの記事の元になったしょうゆ焼きそばを作った時も、しょうゆを入れすぎてしまった。
でも料理というものは、いつもいつも無難なそれなりにおいしい味のものができるより、死ぬほどうまい時もあれば、ちょっとまずい時もあるという「変化」があったほうが楽しいものだ。
それにだいたい、
「料理についての新たな発見は、失敗した時に生まれる…」
これは間違いない。
ノーベル賞級の発見も、多くは実験の失敗から生まれている。
「エサキダイオード」などはその代表例だ。
だから失敗を怖れてはいけないのだ。
ちなみに僕は、今回しょうゆは「うす口しょうゆ」を使っている。
うす口しょうゆは色がうすいから、材料がきれいに見えるのが特徴だ。
京都に来て以来、僕はうす口しょうゆを多用しているのだけれど、色だけの問題だから、べつに普通のしょうゆでもOKだ。
◆ しょうゆ焼きそばの作り方
しょうゆ焼きそばの作り方は、ほんとうに簡単だ。
まず豚コマ肉を炒める。
テフロンのフライパンなら、油はまったく引かなくてもいい。
豚肉からけっこうな量の脂が出るからだ。
あまり脂っぽいのが好きではない人は、「豚ロースうす切り」とかを使ったらいい。
でもこういうものは、豚のうまい脂がきちんと出る、「豚コマ肉」のほうが圧倒的にうまい。
それに豚コマ肉は、ロース肉よりぜんぜん安い。
豚肉は、肉の色が変わるまで炒める。
火加減は、炒め物の場合はつねに最強の強火。
長ネギを入れる。
これはサッと炒める。
フライパンの真ん中をあけて、そこの鍋肌にしょうゆダレを流しこむ。
タレには酒が入っている。
酒のアルコールの風味が残ると鼻につくので、きちんと沸騰させ、アルコールを飛ばしてから材料にしみ込ませるのが大事なのだ。
タレを入れたら材料を軽くまぜる。
麺を入れ、よく炒める。
麺は炒めることによりおいしくなるから、ある程度ちゃんと炒めたほうがいい。
テフロンのフライパンならくっつく心配もない。
炒め上げる直前に、「コショウ」を軽くふる。
コショウは熱を入れると風味が飛ぶから、最後に入れるようにする。
さてここで味見をしたくなるところだが、しないほうがいいのだ。
「炒め物で味見をすると、だいたい間違う…」
例えばここで、塩辛すぎたとするだろう。
そうするともう取り返しが付かない。
だからその場合、味見をする意味自体がない。
味見をして、「塩気が足りない」と思うときがクセモノだ。
僕の経験から言うと、
「ここで塩や醤油を足してしまうと、確実に間違う」
のだ。
一つには、味にムラがある場合がある。
麺と肉とでは、しょうゆの効き方が違うことがあるのだ。
だから一部から全体を判断してしまうことにより、間違うことがある。
それから、塩加減というものは、一口食べた時の感覚だけでなく、それを一皿食べた時の、全体の塩分量にも関係する。
一口食べた時にはちょうど良くても、それを一皿食べ終わってみたら、塩分が多すぎた、ということがよくあるのだ。
人間は、
「自分の直感を信じることも大事」
だ。
しょうゆダレを作った時の直感を信じ、ここでは味見をしない。
実際食べてみて、もし塩加減が足りなかったら、そこで初めて塩をふるようにするのがいい。
今回ネギの青い部分がなかったので、見た目的な意味で、青ねぎを振ってみたのだが、青いところを使っていれば、べつにそんなことは必要ない。
◆ 焼きそばに合う酒
焼きそばに合う酒。
やはりこれは、圧倒的に
「ビール」
だろう。
僕がいつも行く「グルメシティ」で、プライベートブランドの第3のビール、
「79円」
で売っていた。
缶ジュースより安いとは信じられん。
◆ サイドディッシュの考え方
焼きそばは単体で、けっこうお腹も膨れるし、栄養も悪くないし、酒のつまみにもなるし、これだけで十分なのだが、それだとちょっと寂しいという場合がある。
これに何か1品か2品、足したいな、という場合。
「火を使わずに作れるものを選ぶ」
ことが重要だ。
世の中には、火を使わず、ただ切るだけで、十分おいしく、栄養があり、酒のつまみにもなるというものがたくさんある。
代表は、
「冷奴」
「オニオンスライス」
これは最近の僕の定番だ。
それから
「冷やしトマト」
というのもある。
冷奴はただ切って、チューブのしょうがとかつお節、それにネギを切ったのをのせ、しょうゆかポン酢をかけて食べる。
オニオンスライスは玉ねぎをうす切りにし、辛いのが気になる人は、それを少し水にさらす。
僕は辛味があった方がうまいと思うから、水にはさらさない。
かつお節をふり、「ポン酢」をかけて食べる。
冷やしトマトはただ切って塩を添えるだけだ。
他にニンジンやキュウリなどを切って、味噌を添えたっていい。
こういう手のかからないものを1品でも2品でもつければ、食卓はさらに豪華になるという企画だ。
ただしこの日、僕は長ネギの焼きそばに、青ねぎをふった冷奴、さらにオニオンスライスと、ネギづくし、ネギネギしくなってしまったので、それはちょっと考えるべきだった。
◆ しょうゆ焼きそばの応用例
しょうゆ焼きそばは、応用例がかなり広い。
今回は長ネギを入れたが、野菜は、かなりのものに置き換え可能だ。
肉も、牛や鶏を使っても問題ないと思う
ちなみに最近作ったもの…。
チンジャオロースー焼きそば。
これは長ネギの代わりにピーマンを使ったというもので、基本的な作り方はまったく同じ。
さらにピーマンだけじゃなく、玉ねぎも入っていて、玉ねぎを使うと甘いコクが出る。
豚肉と小松菜の焼きそば。
これも作り方はまったく同じ。
これを作った時は、ニンニクを使わずに、かわりに皿に盛ってから青ねぎとかつお節をふった。
味が和風になって、それもなかなか良い。
◆ 参 考
今回のしょうゆ焼きそばには、実は元ネタがあって、それは「大好きな炒め物」という本だ。
「ウー・ウェン」という女性が書いた、中華の炒めものについて書いたもの。
中華料理の本というと、よく「プロの技を教える」などというものが多いが、あれはほとんど参考にならない。
中華料理店と家庭とでは、コンロの火力をはじめとして、条件がまったく違うから、店でやるやり方など覚えても仕方ないのだ。
ウー・ウェンはこの本で、は中国の「家庭料理」を紹介している。
僕も今まで、料理の本は何十冊と買ったけれども、この本がいちばん参考になっている。
初心者にもいいと思うので、興味があればどうぞ。