2009-08-15

DVD 「仁義なき戦い」


一年前広島に来た時から、広島に来た以上、「仁義なき戦い」は見ないといけないだろうと思っていて、近所にTSUTAYAがあるのでそこで何度かチェックしたりしていたのだが、結構人気なんだな、そのたびに借り出し中だったりとかして、これまで果たせなかったのだ。今回お盆休みということで、再びTSUTAYAに見に行ったら、シリーズ5部作全部が揃っていたので早速借りてきて、昨日と今日で全部見てしまった。

1952年から72年にかけて呉と広島を舞台に実際に起こった、暴力団の抗争事件を元に作られた映画で、暴力団の抗争というと何となく、広島が本場というイメージがあるが、抗争自体は何も広島に限らず、全国色々な場所で起こっているわけで、ところが広島の抗争の場合、その中心人物の一人が獄中で、原稿用紙700枚に及ぶ手記を書き、その手記を元にこの映画が作られ、大ヒットしてしまったということで、そういうイメージが何となく、定着してしまったのだろうと思う。

僕はもう広島に1年以上住んでいるから、菅原文太初め役者の全員が広島弁を喋っていることや、ロケで広島本通や新天地、流川などがちょこちょこっと出てきたりすることが何となく嬉しく、ただ暴力団の映画ということではなく、ちょっとした思い入れを持って、見ることができた。


主人公は菅原文太扮する、広能(ひろの)昌三。これが手記を書いた美能幸三という人をモデルとしているのだが、彼が戦争が終わって呉に復員してきて、ヤクザ同士のトラブルを自ら相手を殺して解決してやることをきっかけに、ヤクザ渡世を渡っていく有様を、ただ広能本人の周りで起きたことだけではなく、様々な親分や子分たちの詳細な振る舞いを含めて描いていく。手記がどの程度のものであったのか詳しくは知らないし、映画化するにあたっての取材もかなりされたのだろうが、でもたぶん、この元々の手記が、大したものだったのだろうと思う。ただ出来事が羅列されるに留まらず、どうしてその事件は起きたのか、なぜその人は死なねばならなかったのか、ということについて、分析され、考えが述べられている。それがある思想の表現というところまで達していて、それはひと言で言うと、「親分がダメだから、若い人たちがああまでたくさん、死んでいったのだ」ということ。優柔不断で決断力はないが、政治力に長け、子分連中を分断し、互いに反目させることで、自らの立場を確保していく。若い子分を甘い言葉でかどわかし、死地に追いやることで、自分の身を守る。そういうヤクザの親分の姿は、何もヤクザに限ったことではなく、専制的な独裁者に常に見られることであり、日本の会社にでも、そういう上司や社長はいくらでもいることだろう。親分の下にいて、なんとか親分の優柔不断を正し、組を立て直そうとする子分が、逆に親分の陰謀にかかり、自らが死んでいく。政治的な駆け引きをし、なんとか親分を窮地に追い込もうとするが、逆に自分が窮地に追い込まれる。この映画が公開されたのは昭和48年、日本は高度経済成長をひた走っている時代だ。「会社のため」と言われながら、結局は使い捨てにされていく自分を、この映画の登場人物に重ね合わせたサラリーマンも、多かったのではないかと想像する。それがこの映画が、ただヤクザ好きのための映画ということに留まらず、大ヒットした理由だったのではないかと思う。


出演するのは、菅原文太を初めとして、松方弘樹、梅宮辰夫、小林旭、北大路欣也、金子信雄、成田三樹夫、田中邦衛、渡瀬恒彦、川谷拓三、などなど錚々たる男優陣。日本のめぼしい、硬派な男優は、全員ここに出ているんじゃないか、と思うほどだ。第一作で、すでにあまりに錚々たるメンバーが出演し、それが全員死んでしまうものだから、第二作以降、出演する人がいるのかと心配したが、やはり思った通り、松方弘樹や梅宮辰夫など、死んだはずの役者が、何人も、別役で復活してくるのには笑えた。川谷拓三などは三度くらい、無残に殺されるチンピラを演じていた。


菅原文太が落ち着いたいい味を出しているのは当然として、あとは北大路欣也が特にいい。第2作と第5作の二本に別役で出ているのだが、ギラギラと野心を燃やす若いヤクザの有り様が、胸に迫る。若い頃は良かったんだな、北大路。逆にダメなのは小林旭。なんとも目が死んでいる。後半はずっとサングラスをかけるようになっているのだが、あまりに目が死んでいて、監督が仕方なくそうさせたんじゃないかと想像する。それから憎まれ役の親分を演ずる、金子信雄もいい。はまり役だったんだろうな。金子信雄が俳優だったことは、この映画を見て初めて認識した。