2009-01-31

広島パセーラ 「総本家 支那虎」

このところラーメンの食べ歩きにハマっていて、一つにはラーメンは全国津々浦々どこに行っても食べられて、しかもそれぞれけっこう特色があり、店主の考え方はもちろん、その土地柄をも反映している感じがして楽しいのと、それから色々違いがあっても、全て「ラーメンである」ということについては共通なので、それが「うまい」とか、「まずい」とか、考えるに当たっても、同じルールというか、評価基準というか、そういうものを適用することができて、考えやすい、ということがある。一日三食ラーメンを食べ続ける、ラーメン評論家の気持ち分かるわ。

というわけで、お昼に広島バスセンターに到着して、早速近くのラーメン屋を探し、辿り着いたのがここ。「広島パセーラ」の地下一階にあって、まあこういう広島を代表する、総合商業ビル、って言うのか、にあるレストランというのは当然、どこかでそれなりの実績を上げて、それが認められて入店するのだろうし、こういうオサレな場所なわけなので洗練もされているだろうし、そういうものよりはもちょっと、荒々しくて勢いがあるものの方が好きな僕としては、というか僕に限らず、人間誰でもそういうものを応援したくなるものだと思うが、この店、入るのにちょっと躊躇するところもあったのだけれども、「プチラーメン評論家」としてはやはり、一通りを知ろうとしなくてはいけないだろうと、行ってみることにしたわけだ。いけなくはないが。

「しなとららーめん」、650円。

このラーメン、予想通り、かなり洗練されている、というか、微に入り、細にわたる計算が、積み重ねられている感じがする。スープを一口飲んで、「あ、これはどこかで食べたラーメンと同じ味がする」と思ったのだが、よくよく思い出してみたら、東京渋谷の「プライム」という、ここと同じようなファッションビルに昔入っていた、「げんこつ屋」という店のラーメンだった。げんこつ屋は、肉と魚とのダブルスープが売り物だったが、ここはどうなのだろう。鶏がらだしベースだと思うが、豚の背脂が浮いているのも見えるし、他にもたぶん、かなり色々入っているのだと思う。あっさりというのでもなく、かといって濃すぎるでもなく、醤油味も薄すぎるでもなく、濃くもなく、塩気も薄くもなく、きつくもなく、誠にバランスがいい。

麺は、これが、普通だったらあっさりしたスープに合わせられることが多い、細いちぢれ麺。軽くフェイントかけられたような、意外な感じがする。チャーシューは、丸くお洒落に成型されているが、流行りの「トロトロ」ではなく、脂が抑えめになっている。それにトロトロの半熟玉子。さらに極細のしゃきしゃきしたもやしと、たっぷりの青ねぎ。全体として大きな特徴を打ち出してはいないのだが、食べる側の気持ちをいちいち予測し、計算しながら、細かく全体を構築している、という感じが、強くするのである。

まあこういう場所にあるラーメン屋は、やっぱり違うよな、と、これは僕的には感心して、という意味ではなく、予想通りちょっとがっかり、ということなのだが、そう思いながらお勘定をしてくれた店員に、
「この店は本店はどこですか」と聞いたら、
「山口です、県内を中心に展開していて、広島には今、2店舗です」とのこと、それを聞いて、瞬間、この味の謎が解けたような気がした。長州なのだ、これは、たぶん。

徳川家康によって本州の外れの小さな場所に押し込められて250余年、長州藩は恨みの気持ちをひた隠し、情勢を伺いながら、倒幕のための機会を待った。その長い期間のうちに、長州藩の人たちの、人心を読み、世情を読む能力は、極限にまで研ぎ澄まされただろう。それが明治維新で思う存分発揮され、明治期の政治の中枢を担い、現代でも総理大臣を続々輩出している。そういう長州人が作り上げたものであると考えると、この、食べる人間の気持ちを計算しつくしたラーメン、とても納得できるのである。とまあ、ラーメンごときで、こんなに熱くならなくても良いのだが。

総本家 支那虎 広島パセーラ店 (しな虎 そうほんけ しなとら) (ラーメン / 県庁前、紙屋町西、紙屋町東)
★★★★ 4.0