2008-12-31

名古屋東区泉 フランス風居酒屋 「ブラッスリー・アブサン」


「ブラッスリー(Brasserie)」とは、「フランス風居酒屋」のことだそうだ。
居酒屋というからには、料理がうまいのはもちろんのことだが、それだけでは足りない。
その空間そのものが、居心地の良い、くつろげる場所であることが重要になる。

この店の建物はもともと古い長屋だったものを、オーナーとオープニングスタッフ数名が自らの手で改造したものだそうだ。
また家具や調度品の数々も、オーナーが自身で海外に出かけ、買い付けたものである。
入り口を入って手前には種々の個室、真ん中にカウンター、奥にダイニングホールがあるのだが、そのいずれもが趣向が凝らされ、こういう趣味を何と呼ぶのだろう、ロココ調というのだろうか、中世ヨーロッパ風の退嬰的で快楽主義的な、そういう感じ、それが元々の長屋の「昭和」な感じと溶け合い、和洋折衷の極とも言いたくなるような、他では見たこともない濃密な空気をかもし出している。


そして特筆すべきは、スタッフが誰も、客に対するホスピタリティーにあふれ、この店での仕事が自らの楽しみと、まれに見る幸せな形で融合しているのだろうなと思わせるような、生き生きとした様子で立ち居振舞っている。
誉めすぎかと思うかもしれないが、本当なのだ。
これは一つには、オーナーの人を見る眼力によるところが大きいだろう。
またオープニングスタッフは、店の改築といういちばん初めのところから、自らとんかちを叩き、ペンキを塗るという体験をしているから、店に対する愛着が限りなく湧いてくるということもあるだろう。
さらにオーナーは、姉妹店の経営も忙しい中、時間があれば自らカウンターに立ち、客の相手をすることを楽しみとしているから、そんなオーナーの背中を見ながら、スタッフも育っていくのだろう。

僕は名古屋時代に住んでいた家がここからすぐそばだったこともあり、初め何回か行くうちに、この店の巨大な引力に引き寄せられ、一時は2日に1回くらいも通っていた。
名古屋を離れることになった時には、10人近い常連客の人たちが集まってくれ、送別会をしてくれた。
その仲間が、それからずっと継続され、一昨日もあった食事会のメンバーである。

昨日は久しぶり、半年ぶりにこの店に顔を出し、オーナーやスタッフ、馴染みのお客さんとの忌憚のない、くつろいだ時間をすごした。
飲むのはいつも、


シバス・リーガルの水割り。
ボトルは8,000円。

食事は、1,800円でワンドリンクからカップスープにサラダ、肉または魚の料理、パンまでがついた「ワンプレートディッシュ」や、3,800円でワンドリンクがつき、前菜7種、スープ2種、メインディッシュ7種の中から一品ずつ選べ、パンとデザートの盛り合わせまでがついた「カジュアルコース」、さらにもちろん要望に応じて様々なコースが用意されているのだが、僕はだいたいワンプレートか単品料理。
昨日は、


「鶏もも肉のコンフィ キャベツのマリネ添え 豆入りカレークリームソース」。
1,500円。
鴨の脂でじっくり火を入れ、皮がパリパリになった鶏もも肉に、豆の入ったカレー風味のクリームソースが何ともよく合う。
これを時間をかけて、ちびちび食べる。

「隠れ家的な店」という言葉があるが、その意味するところは、外から発見されにくい場所にある、生き生きとした秘密の空間、ということだろう。
栄の繁華街から少し離れた場所にあるこの店は、それを見せかけに装っているのではなく、本当の意味で「隠れ家的」であり、また僕にとっては、実際に、隠れ家である。

Brasserie Absinthe (ブラッスリー・アブサン) (フレンチ / 久屋大通)
★★★★★ 5.0