みっちゃんといえば、広島風お好み焼きの源流の一つと言われる店である。みっちゃん総本店の店主が、広島風お好み焼きを今の形につくり上げたと言われていて、その直営店や暖簾分けした兄弟店など、広島市内で10店以上のみっちゃんが営業している。焼き方やメニューは店により微妙に違ったりもするのだが、基本的に安定していてどこもおいしく、広島風お好み焼きの王道と言えるのだと思う。
このみっちゃん光町店は、やはり総本店からの暖簾分けのようなのだが、なんと店主が、みっちゃん総本店店主の息子さんなのだという。光町というのは広島駅の北側、繁華街は駅の南側に広がるので、そこからは遠く離れた、住宅地に近いような場所、そこで源流のジュニアが店をやっているのだ。これは何か思うところがあったに違いない。実際、「親父と私の『お好み焼き観』が異なってきたので、私なりの答えを模索するために、この店を始めたんです。」(*)ということらしい。これは行って、お好み焼観のちがいとは何なのか、確かめねばならないだろう。
そば肉玉、682円。繁華街にあるみっちゃんはどこも735円だから、住宅地だということを考慮しているのだろう、ちょっと安く設定している。完成品をぱっと見た感じは、いわゆるみっちゃんのお好み焼きなのだが、食べてみると全然ちがう。キャベツがみずみずしく、ジューシーで、ほくほくしている。作るのを見ていると、塩や化学調味料などをまったく入れない。生地を丸くのばした上に鰹節をふりかけるのと、焼き上げてからソースを塗って、青海苔をふりかけるだけ。また上からいっさい押さない。途中でキャベツをほぐしなおして、火が通るようにしているようだが、キャベツのうまみをそのままたっぷり残すようにしているのだろう。みっちゃんはどこでも、化学調味料などをふんだんに使い、またしっかり押しつぶすことにより、凝縮された濃い味を出そうとしているように思えるが、それとは対極にあると言っていいのだと思う。
ご主人と目が合ったので、「キャベツがみずみずしくて、おいしいですね」と言ったら、色々話してくれた。使っているキャベツ、とくべつ上等なものではないのだそうだ。でも自然の味を生かし、まっすぐ焼き上げれば、それでもこんなにおいしくなるということを知ってほしい、という。「たかがお好み焼き」なのだが、その「たかが」が奥が深い。ただ今食べておいしいということだけではなく、お好み焼きも、きちんと後世に残る味をつくっていかなければいけない。しかし今はなかなかそういう志をもった職人が育たないのだそうだ。もちろんきちんと利益が上がっていかなければいけないから、兼ね合いは難しいが、そういうものを自分は見つけていきたいのだ、と熱く語ってくれた。
この場所で店をやるまでには、色々葛藤もあったのだろう。でもこうやって自分の信じる道をつらぬこうとすること、素晴らしいなと思う。広島風お好み焼き、まったく簡単そうに見えるのだが、じつは広大な世界を有するものなのである。
みっちゃん 光町店 (お好み焼き / 広島)
★★★★★ 5.0
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