2008-07-28

『ルポ 貧困大国アメリカ』 堤未果著

この本を読んでいると、だんだん恐ろしくなってくる。今アメリカがとんでもない方向に進みつつあって、そして日本も、それを追いかけているというのだ。

アメリカでは9.11以後、新自由主義という考え方のもと、国家が行ってきた様々なことが民営化されていった。小さな政府、民間でできることは民間で、という話で、良いことのように思うのだが、医療や教育など、人間の生存に欠かせない部分までもが民営化され、市場原理に巻きこまれていったために、一回の盲腸の手術で自己破産してしまうような人が続出し、それまで中流階級だった人たちが一挙に貧困層に落ちていってしまっている。猛烈な格差社会が生まれてきてしまっているというのだ。

さらに恐ろしいのは戦争までもが民営化され、後方支援部隊や、さらには兵士までもが、政府に委託された民間会社が人を派遣するようになっている。そこで送られるのは、格差社会で貧困層に落ちてしまい、生きていくことすら難しくなってしまった人たち、彼らが生活の糧を得るためにイラクへ送られているという。そういう人たちをリクルートするために、テロ防止を名目として、様々な個人情報が政府に一元的に集められ、貧困層を狙い撃ちして戦場への勧誘が行われている。まさに国家が人民を食い物にしているのである。

中国も役人が腐敗し、ひどいことになっているそうだが、民営化というそれとは逆の方向に行っているかのように思われるアメリカも、じつは同じ穴のむじななのだった。何とも恐ろしい世界になってしまったものだ。

ソ連が崩壊し、社会主義が敗北して以来、競争相手がいなくなり、タガが外れた資本主義は暴走を始めているのだろう。中国も、アメリカも、そしてその他の幾多の国々が、国の支配層と、それと結託した一部の大企業が、自らの利益を最大化することに血眼になっている。民主主義はお題目に過ぎず、ほとんどの人たちは生きていくことすら覚束ない状況に追いやられていく。

このままでは世界は本当に崩壊してしまう。著者は言う。現在の民主主義は経済重視の民主主義であり、大量生産大量投棄を行うことにより、日常生活の便利さをもたらした。でも能力主義で目に見える利益に価値をおくこのやり方を使うから、戦争がもっとも効率の良いビッグビジネスになってしまっている。

しかしそうではなく、 いのちをものさしにした民主主義というものがあるのであって、ゴールを環境や人権、人間らしい暮らしに光をあて、一人ひとりが健やかに幸せに生きられる社会を作り出すことを目指さなければいけない。そのためには今何が起きているのかを知らなければならないし、国境を越えて市民と市民が手をつないでいかなければならないのだ、と。

まさにその通りなのだと思う。