2008-07-03

薬研堀 八昌



八昌はやはり、都市部のお好み焼き屋では、王者である。
激しい割安感がある。応援しなくちゃ、という気にさせられる。

まず調理に、考えられないくらい長い時間をかける。今日も出てくるまでに30分以上かかった。普通の店のざっと倍である。時間をかけることによって、キャベツがほんとに甘く、柔らかくなる。
また麺も時間をかけて焼き付けるのでパリパリになり、キャベツのホクホクとのコントラストがたまらない。
しかしその分、お客の回転率が下がり、儲けも下がる計算になる訳だから、普通はなかなか出来ないことだろう。



次に大きさがでかい。皮も厚くて、キャベツもそばも、量が多い。
普通の店のお好み焼きは、僕の場合、ちょっと足りないかな、という感じなのだが、ここでは超お腹一杯になる。

卵も大きくて、しかも黄身が二つ入っているのを使っている。どうせ潰れてしまうのだから、黄身は一つでも二つでも変わらないのだが、お客の目の前で卵を割ったとき、黄身が二つ入っていると、やはり、オー、というイベント的な効果がある。

その卵を、本体を載せたらすぐひっくり返し、とろとろの半熟状態にする。これにソースが絡まり、普通のお好み焼きとは次元の違う、味の楽しみがある。お好み焼きのあり方そのものにも、かなりの工夫があるのである。

またお勘定のとき、メニューにはそば肉玉787円と書いてあるのだが、800円渡すとおつりを20円くれる。正味780円なのである。
しかし形の上で7円おまけされているから、お客としては、つい得をした気持ちになり、悪いね、ありがとう、と思ってしまう。最後の最後まで、芸が細かいのである。

お客に対して、商売としてここまで奉仕してもらうと、お客としても応援せざるを得ない。
待ち時間が長いことについても、お客もそれが美味しくなるための時間であることを分かっているから、ビールを頼んだり、煮込みなどのつまみを頼んだりして、積極的に楽しもうという気配が生まれる。それが客単価を上げる効果は大きいだろう。店員もその辺は抜かりなく、ビールの追加注文を取りにくる。
また行列して並んででも、ここに通ってこよう、という気持ちにさせるし、インターネットを初めとした口コミも、僕がこうしてここに書いているのが正にそうなのだが、みんな積極的にやると思う。

このように、お客が自然と、応援しよう、という気持ちにさせることで儲けるという戦略、王者と呼ぶにふさわしいやり方だと思う。

地域のお好み焼きの店は、たぶんほとんどがそういう風に商売しているだろう。地域の固定した人たちを相手にするわけだから、皆に支持され、応援されるということでなければ、商売は成り立たない。
実際地域の店に初めて行くと、タダで生ビールを出してくれたり、普通はかけないネギをかけてくれたり、ということは稀ではない。初めは出血サービスをしながら、常連客をつかんでいくのだろう。

しかしお好み焼きも有名になり、都市部の店には観光客が押し寄せるようになる。そうすると、観光客を相手に、もっと簡単に商売しようとする人もあらわれるだろう。八昌のオーナーは、もともとお好み村に入っていた。しかし薬研堀という、街の外れも外れに移動したのは、そういう観光客相手、一見相手の商売が面白くなくなったからなのだという気がする。お好み村の店が儲かっていなかった訳がないからだ。

さらにそのオーナーは、今では薬研堀も弟子に渡して、自分は五日市という、さらなる奥地に引っ込んでしまった。薬研堀にも観光客が押し寄せるようになり、たぶん興味を失くしてしまったのだろう。いやはや、たいした人物だなと思う。

八昌 (はっしょう) (お好み焼き / 胡町)
★★★★★ 5.0

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