ディズニーにはもともとあまり興味はなく、ディズニーランドにも数回、映画も子供の付き合いでわりかし最近のを何本か見た程度だった。好きか嫌いかといえばあまり好きなほうではなく、ディズニーランドもあの人工的な感じがなじめないし、映画も感動を呼ぶストーリー作りのうまさには舌を巻くが、それを好きと思ったことはなかった。
新聞の書評でこの本を見たとき、ああ、そういえば今までこの巨人のことを知ろうとしたことがなかったなと思い、早速Amazon.comで購入したのだった。
読み始めたら面白くて、一気に読み終わった。
この本の帯の文句が、「ミッキー生みの親、実は『嫌なヤツ』?」という、まぁちょっと売らんがためのものなのだが、 実際ウォルト・ディズニー、人並みはずれた才能と意欲を持ちながら、毀誉褒貶を繰り返していく、たくさんの仕事仲間に囲まれながらも、終生孤独な、そんな人生を送った人で、読み終わって寂しさというか、苦さというか、そんなものが残った。
とにかくウォルトは、自分が面白いと思うもの、やりたいと思うことに全力を傾け形にしていく。常にフロンティアであった人だから前例はないし、製作資金のために莫大な借金をし、周りの人間との摩擦を繰り返し、それでもひたすら前に進んでいく。そのエネルギーの大きさに、まずとにかく驚かされる。
そのエネルギーはどこから生み出されるのか?著者はそこにきちんと目を向け、丁寧に描き出そうとしていく。ウォルトが人生をかけて表現しようとしたものは何だったのか。それはまさにウォルトという人間がアメリカにおいて、生きていくという営みそのものであった。
著者は一流のノンフィクション作家で、それが7年間をかけて、ディズニーから全ての文書の公開を受け、しかも何の検閲も受けないという条件の下、この本を執筆した。ディズニーにおもねるのではなく、否定するのでもなく、抑制の効いたスタンスで、 ウォルト・ディズニーという希代のクリエーターを描き出している。 アメリカではベストセラーとなり、各方面から絶賛を受け、賞を受賞した。
ダイヤモンド社刊、中谷和男訳。1900円+税。
Amazon.co.jp: 創造の狂気 ウォルト・ディズニー