酒を呑むときには、やはりそのほろ酔い状態を、できるだけ長い時間、味わっていたい。
酒を呑むのは、酔っ払って、気持ちよくなるのが目的ですから、せっかくなら、酔っ払った状態がすぐに終わってしまうのでなく、十分楽しみたいわけです。
そうなると、大敵は「満腹」であるということになる。
お腹が一杯になると、もうそれ以上、酒を呑みたくなくなってしまうから、酒の肴に必要なことは、まず何より、
「食べてもお腹が一杯にならないこと」
なんですね。
ですから麺やご飯など炭水化物系は、酒を呑んだあとのシメにはいいけれど、酒の肴には、適当でないことになる。
それに対して、豆類などは、アルコールを分解するための栄養分を豊富に含みながらも、お腹がふくれないので、酒の肴としてうってつけだということになります。
ただ「食事」に対しては、やはりそれなりの満足感が、食べる以上、必要にはなりますから、酒の肴が、満腹を目的としないのならば、それに代わる、何らかの目的がないといけないことにはなってくるでしょう。
それが「美味」なんだと思うんですね。
もちろん人間が、味覚を感じるものである以上、食べ物はうまくなければいけないわけですが、空腹を満たすためのものならば、とりあえず空腹が満たされれば、まずは第一の目的は達成されたことになる。
ところが酒の肴は、満腹を目的としませんから、その存在価値は、美味によってしか証明できない。
酒の肴は、おいしくなければ、まったく意味が無いことになってしまうんですね。
ですから酒の肴を開発することが、「料理の発展」に寄与した役割は、たぶん、非常に大きいのだと思うんです。
ヨーロッパの上流階級の人などは、お腹が一杯になると鳥の羽を喉に突っ込んで、今食べたものをもどしてから、また食べたといいますから、食事に満腹など求めていなかったでしょう。
酒を呑み、酩酊状態にいながら、おいしいものを食べ続けるということに、贅沢な楽しみを見出していたに違いありません。
白飯や麺類がおいしいのは、それらが実際に人間の体にとって、欠かすことのできない栄養源になるからで、人間はそれらを、本能的においしいと感じるものだと思うんですが、満腹にならずしておいしくなければいけない酒の肴は、本能に訴えることができませんから、より技巧的にならざるを得ないものだといえるでしょう。
酒の肴のおいしさは、本能ではなく、「脳」に訴えるものでなくてはいけない。
そこに、「プロの料理人」の出番があるともいえるのだと思いますが、ただ不思議なことに、これは「日本人にとって」ということなのか、万国共通なのかはよくわかりませんが、酒の肴には、シンプルなものの方が合う。
ゴテゴテと手をかけたものは、ワインなどにはいいのかもしれませんが、日本酒や焼酎を呑むには、ごくごく単純なものの方が、おいしく感じられるもののように思います。
そうなると酒の肴は、べつにプロの料理人でなく、素人であっても、十分手に負えるものになるということだと思うんですね。
酒を呑むということは、基本的に、非生産的な活動です。
非生産的であるからこそ、そこに手をかけずに美味を追求するということが、日本人にとっては、1つの美学になっているということなのかもしれません。
今日は、「ハマグリの潮汁」「ほうれん草としめじのカラシ酢醤油和え」「もやしのゴマ和え」、それに「豚ロースの梅かつおソース」を肴に、燗酒を呑みました。
どれもよかったですよ。
ただ本当は、酒の肴は、量が少なめの方がいいんですが、1人だとどうしても、ほうれん草でももやしでも、1把や1袋を買わなければならず、食べられないほどではないけれど、酒の肴には量が多すぎることになってしまうのが、ちょっと残念なところです。
ハマグリの潮汁。
<材料>
・ ハマグリ 1パック(4~5個)
・ 水 400ccくらい
・ だし昆布 1枚
・ 酒 大さじ1
・ うすくち醤油 小さじ1
・ 塩 少々
<作り方>
1. ハマグリは、1カップくらいの水に、小さじ1くらいの塩を溶かし込んだ水に1時間くらい浸して砂出しをし、よく洗って殻の表面についた汚れを落とす。
2. 鍋に水を張り、昆布を入れて30分くらいおき、ハマグリを入れて中火にかける。沸騰したら昆布をとり出し、アクを取りながらハマグリの口が開くのを待つ。
3. ハマグリの口が開いたら、火を弱め、酒とうすくち醤油、塩で味付けし、味が決まったら火を止める。
ほうれん草としめじのカラシ酢醤油和え。
<材料>
・ ほうれん草 1把
・ しめじ 2分の1パック
・ うすくち醤油 大さじ1
・ 酢 大さじ1
・ カラシ ほんの小指の先程度
<作り方>
1. 鍋に湯を沸かし、しめじをサッと、30秒ほどゆで、網などですくい取って皿に取り、そのまま冷ます。
2. 同じ湯でほうれん草をサッとゆでる。ほうれん草は、面倒でも、1茎ずつゆでるようにして、ゆでる時沸騰を保ったままにしておくほうがおいしいです。ゆでたほうれん草は水にとって冷まし、絞って4センチ長さほどに切る。
3. 器にうすくち醤油と酢を入れ、カラシをよく溶かし、ほうれん草としめじを和える。
もやしのゴマ和え。
<材料>
・ もやし 1袋
・ すりゴマ 大さじ1くらい
・ うすくち醤油 大さじ1
・ みりん 小さじ1
<作り方>
1. もやしを塩をふった湯でサッと30秒程ゆで、ザルにとって冷ます。
2. もやしを器に入れ、すりゴマ、うすくち醤油、みりんで和える。
豚ロースの梅かつおソース。
<材料>
・ 豚ロース 100グラムくらいの1枚
・ 梅干し 2~3個
・ 大葉 2~3枚
・ うすくち醤油 小さじ1
・ 酒 大さじ1
・ みりん 小さじ1
・ かつお節 2分の1パック
・ 片栗粉 大さじ1くらい
・ サラダ油 大さじ1
・ 塩 小さじ4分の1くらい
<作り方>
1. 豚ロースは、脂肪と赤身のあいだに包丁を入れ筋を切り、塩をふって、1口大に切り、片栗粉をまぶす。
2. 梅干しはタネを除き、包丁でよく叩いてペースト状にし、うすくち醤油、酒、みりん、かつお節とあわせてタレにする。大葉は細切りにする
3. フライパンにサラダ油をひき中火で温め、豚ロースの表裏を焼く。
4. 豚ロースが焼けたら、タレを入れ、全体をざっとからめて火を止める。
5. 器に豚ロースを盛り、タレを上からかけて、大葉をのせる。
でも明日は晴れて、暑くなるらしいです。