2012-05-14

酒呑みのやせ我慢。
「アサリと大根の小鍋だて」

酒は、空腹だからこそおいしいもので、腹が一杯になってしまうとおいしくありません。

だから究極的には、何も食べないで、酒だけ呑むのが、酒の呑み方としては一番おいしいことになる。

棟方志功は、塩を舐めながら酒を呑んだのだそうで、これなどは、まさに酒呑みの鏡というべきでしょう。



ただ普通の人は、このような呑み方をしていると、体を壊してしまうことになる。

何も食べないで、空きっ腹で酒を呑むと、ただでさえも酒がおいしいから、グイグイと呑んでしまうことになる。

しかも、特に日本人は、酒を分解するための酵素が足りないそうだから、それを食べ物によって補ってやらないといけないのだけれど、食べないとそれもできないから、肝臓がパンクすることになる。

それで日本をはじめ多くの国は、文化として、酒を食事とセットにするやり方を、長い時間をかけて発展させてきたということだと思うんですね。



本来は、べつに食事は、酒なしではおいしくないということではないはずです。

酒の呑めない人でも、おいしいものはおいしいのは、いうまでもないでしょう。

しかし酒呑みにとっては、いったん酒と食事がセットになり、「酒に合った食事」の味をしめてしまうと、もう酒なしでは、食事をする気にならなくなってしまう。

酒を呑みながら、肴をつつくことの、あの充実した感じを考えると、酒のない食事などは、まさに「クリープを入れないコーヒー」なんですね。



ですから僕は、酒を呑まないときは、極力食事をしないようにしています。

中途半端に、酒のない食事をするくらいなら、食事などしないほうがいい。

それで多くの場合、晩酌だけをして、昼間は食事をせず、お煎餅をかじるくらいになっているんです。



しかしそれで、とくべつ不都合は感じません。

だいたいまず、朝飯など、食べる必要があるとは思えない。

あ、それはもちろん、僕の場合、なんですが、僕は毎日、夜の10時から、12時頃にかけて、晩酌をしますから、翌日の午前中は、腹など空いていない。

なんとなく、「朝飯は食べた方が、健康にいい」などという人が多いものだから、つい食べないといけないのかと思ってしまうところもあるけれど、体の方は正直で、自分の胸に手をあてて、

「お前は本当にお腹が空いているのか」

と問いただしてみると、

「べつに空いていません」

という答えが返ってくる。

それで朝飯は食べないんですが、それでとくべつ、頭がぼっとするなどということも、ないですね。



午後になると、さすがにお腹は空いてくるんですが、でも酒を呑まずに食事をする気にはならないから、お煎餅だけかじって過ごす。

今日も、カウントしてみたら、4枚のお煎餅をかじってました。

たしかにお煎餅くらいかじっても、お腹は空いたままなんですが、べつにお腹が空いていても、気持ち悪くなったり、体調不良になったり、などということは、ありません。

むしろ食事をしてしまうと、眠くなることを考えると、多少お腹が空いているくらいの方が、よっぽど効率よく仕事がはかどったりする。



そうやって、空腹でいることに慣れてくると、空腹でいることが、一種の快感のようにも思えてくる。

体の方は、

「お願いです、食事をさせてください」

と言っているわけですが、それに対して、精神の方は、

「エヘヘヘ、そんなに簡単には食べさせてやらないよ」

と、いじわるをしているような状態ですね。

「一人SM」とでもいえるかもしれません。



またそうやって、体を焦らして焦らして、その末に食事をすると、食事が非常にうまい。

だから僕は、料理中は酒を呑みません。

料理をしながら酒を呑むと、おいしいのは知っているのだけれど、それを楽しむ場合は、卓上で鍋をするなどのことに留めておいて、正式に食事がスタートするまでは、酒も呑まないようにするんです。



といってこれは、「健康法ではない」ことについては、誤解がないようにしてもらわなくてはいけません。

最近どこかのお医者さんが、「1日1食にすると、細胞が活性化して長生きする」みたいなことを、本に書いて出版したりしていますが、僕は、長生きがしたいわけではありません。

「65歳でポックリ死ぬ」のが目標です。

僕が1日で、晩酌しかしないのは、ただ酒呑みの、やせ我慢だということは、はっきりと言っておきたいと思います。



だからどうした。





池波正太郎の「そうざい料理帖」には、「小鍋だて」が色々出ていて、これがおいしそうなんですね。

小さな鍋で、2~3品の少なめの具を煮て、それを1人か2人で、煮るそばから食べていくというやり方。

池波自身、食事は小鍋だてのことが、実際多かったんだそうです。



今日はすこし、肌寒い天気だったので、晩酌は「アサリと大根の小鍋だて」にすることにしました。

ただそれだけだとちょっと寂しいので、それ以外に2品ばかし、魚と野菜の肴をば用意しました。



まずは塩サバの酒焼き。


スーパーには、ノルウェー産の塩サバなどが、ふつうのサバより安く売っていたりするわけですが、それを15分くらい、ひたひたの酒に浸けておいて、それからふつうに焼く。

大根おろしを添えるのが定番でしょうが、大根は後から食べるので、細く刻んだ大葉をのせてみました。

塩サバ自体、おいしいものですが、酒に浸けると、身がやわらかくなり、コクが増して、大変うまいです。



それから水菜と油揚げの煮びたし。

冷蔵庫に水菜が余っていたので作りました。

水菜は、色々なおいしい食べ方がありますが、この煮びたしが、1つの王道であることは間違いないですね。


<材料>(2食分)

・ 水菜 1把
・ 油揚げ 1枚

・ 水 1カップ
・ 削りぶし 1つかみ

・ 酒 大さじ1
・ みりん 大さじ1
・ (うすくち)醤油 大さじ1


<作り方>

1. 鍋に水を入れ、削りぶしを入れて中火にかけ、沸騰したらあくを取りながら、弱火で3分煮て、ザルにキッチンペーパーをひいて濾し、だしを取る。油揚げは熱湯(給湯器の最大温度でかまいません)で油抜きをし、3~4センチ長さくらいで細く切る。水菜はよく洗い、4センチ程度に切っておく。

2. だしに酒とみりん、醤油を入れ、まず油揚げを、4~5分煮る。続いて水菜を入れ、1~2分、さっと煮たら出来あがり。七味唐辛子をかけて食べるとうまいです。








とまずは、上の2つで酒を1合呑み、続いて小鍋だて。


<材料>

・ アサリむき身 1パック

(スーパーで、中国産などのアサリのむき身が、100グラムくらい入ったのが100円そこそこで売っていると思います。それを使います)

・ 大根 5~6センチくらい

・ だし昆布 1枚
・ (うすくち)醤油

<作り方>

1. 大根は、縦に千切りにする。

2. 鍋に水を張り、昆布をいれて中火にかけ、沸騰したら弱火で2~3分煮て、昆布をとり出す。うすくち醤油ならそれだけ、濃口醤油を使うなら、塩を足して、醤油の味が濃くなり過ぎないようにして、吸い物程度の味にする。

3. まず1回に食べる分の大根を入れ、4~5分煮て、それからやはり1回に食べる分のアサリを入れ、サッと煮て器にとる。七味唐辛子をふって食べる。

4. 食べているあいだに、次に食べる分を煮始める。(煮汁が少くなったら、適宜水を足す)。



アサリと大根の小鍋立ては、「そうざい料理帖」には、

「水7に酒3の煮汁で、アサリと大根を煮て、ポン酢で食べる」

というのと、2通りのやり方が書いてあります。






小鍋だてで、さらに酒を1合呑み、残っている煮汁を飲み干したら、大変満足。

今夜もいい夢が見れそうです。