2012-04-16

「オクラと鶏の炊合せ」



僕は料理をしてみたり、それを食べてみたりしながら、その料理について、ついあれこれ考えてしまうタチなんですね。

今回も和食を作ってみたので、「和食」について、いろいろ考えてしまいました。



和食の味の決め手になるのは、やはり何といっても「出汁」になるわけですが、この出汁というもの、べつに肉や魚、野菜などを煮出せばでてくるものですから、和食にかぎらず、どこの国の料理にでもあるものだということもできるでしょう。

外国料理の「スープ」だって、「出汁」だと言ったってよさそうなものです。

でも和食における出汁は、他の国の料理の出汁とは、根本的に異なるところがあるように思うんですね。



日本人が、出汁の味に敏感であるとは、よく言われることです。

甘い、辛い、塩っぱい、苦い、酸っぱいの5つの味のほかに、日本人だけは「うまみ」を感じるようになってるとも言いますよね。

実際それで、うまみの成分が「グルタミン酸」などであることを、日本人の研究者が明らかにし、その研究成果が「味の素」の開発に結実することとなった。



このように、うまみに敏感な日本人の特性が、どのような歴史的背景によるものなのかを考えると、やはり出発点は、「肉食の禁止」なんだろうと思うんです。



675年に天武天皇が「肉食禁止令」を発令して以来、明治に入るまで1200年間、日本では肉食が、建前としては禁止されてきたわけですよね。

これは表向きは、仏教が肉食を禁じることが理由だとされていますが、どうもそれだけではなかったようです。



そのころ日本は遣唐使を派遣し、中国からも多くの官吏や貴族が日本に渡ってきていました。

中国からの官吏は、中国料理を食べますから、当然「肉食」なわけですよね。

肉食を禁止したのは、それら中国系の人たちの影響力を、牽制する意味合いもあったという説もあるそうです。



また肉食禁止は、秀吉の時代にも、ふたたび厳重に徹底されます。

これはポルトガル人が来日するようになり、その影響で、日本人に肉食が広まりかけたのを、押しとどめる意味があったのだそうです。



ですから肉食の禁止は、単に宗教的な戒律ということにとどまらず、日本が他国からの干渉をうけずに、独立を保つための、1つの方策であったということもできるのでしょう。

食生活が人間におよぼす影響は大きいですから、まずはそこから、他国の影響を排除するということも、あったのかもしれません。



肉食の禁止と前後して行われたのが、ニンニクやニラ、ネギなど「五辛」の禁止です。

日本の禅宗の寺には、「不許葷酒入山門」と書いてあるそうですが、「葷」はニラやニンニクのことで、「葷を食べ、と酒気を帯びたものは、入ってはいけない」という意味になるそうです。

ニンニクも、当時から中国でふんだんに使われていたそうですから、それを禁止するということも、やはり中国の影響力を排除する意味合いがあったでしょう。

中国から伝来した仏教の戒律を盾として、肉やニンニクを禁ずるということは、中国人にたいする牽制としては、うまいやり方だったということなのかもしれません。



しかしそこで日本人が困ったのは、

「料理の味をどのように成り立たせたらよいか」

ということだったと思うんです。



中国の料理では、材料をニンニクと油で炒めることが、味の中心となっている。

実際たとえば、豚肉でも牛肉でも、水で煮たとして、これに醤油で味を付けただけでは、どうもぼんやりした味になってしまってうまくいかない。

ところがここに、ニンニクが入ると、味がきちんと決まるんですよね。

ヨーロッパやインドの料理でも、事情は基本的におなじでしょう。



ところが日本では、ニンニクを禁止してしまったわけですから、それなしで、料理の味を成り立たせる方法を見つけなければならない。

これが「出汁」だったということなのだと思うんです。



料理にはやはり、味の「中心」が必要なのだと思うんですよね。

ただ材料をまぜ合わせ、煮たり炒めたりするだけでは、どうも味がバラバラになってしまう。

バラバラの味を、1つに統合するものが必要だということになるんだと思うんです。



豚の出汁は、ニンニクが加えられると、大変おいしく食べられるものになるわけですが、実はニンニクではなく、和風だしをいれても、また実においしいものになる。

昔のラーメン屋は、味の素を大量に使っていたでしょう。

これはただ、「豚骨を節約する」という意味にとどまらなかったと思うんです。

豚の出汁の味を、日本人があまり好まなかったニンニクを、あまり使うことなしに味を決めるために、出汁の一種である味の素が必要だったのだと思うんですよね。

最近のラーメンでは、味の素の代わりに、魚介のほんとうの出汁を使うようにもなりましたけど、これも考え方としては、おなじことでしょう。



日本人は、かなりの時間をかけて、精進料理なども参考にしながら、この「出汁」が料理の味をまとめる「中心」となりうることを、見つけ出したのだと思うんです。

そうして、この出汁を中心としながら、世界に類を見ない、「日本料理」という独自の料理体系が確立したということなのでしょう。



* * * * *



昨日は、これから出盛りになっていく「オクラ」を、鶏肉と炊き合せました。

去年の夏は、洪水などの影響で、オクラが200円を超すこともあるという、信じられない値段がついたこともありましたが、今年は今のところは、安定しているようです。



炊き合せは、ただ煮ればいいんですから、なにも難しいことはありませんが、青い野菜はさっと下ゆでしておくようにすると、青臭さが抜け、おいしくなるかと思います。

また出汁は、昆布と削り節などをつかって自分でとると、はるかにおいしくなるのは間違いありません。



◎ オクラと鶏の炊き合せの作り方

■ 材 料

・オクラ・・・5本でも10本でも好きなだけ

・鶏肉・・・モモ肉100グラムでも200グラムでも

・焼き豆腐・・・半分でも1丁でも

・出汁・・・鍋の大きさにもよりますが、材料がきちんとかぶる量。たとえばカップ2

・酒・・・大さじ1

・みりん・・・出汁がカップ2だとしたら、大さじ1.5

・うすくち醤油・・・みりんと同様、大さじ1.5



■ 作り方

オクラはまな板の上で塩をふり、手でズリズリと転がして塩をすり込んで、水でさっと、30秒ほどゆでる。



出汁を鍋に沸かし、酒とみりん、うすくち醤油をいれ、味をみる。

甘ければ醤油、塩っぱければみりんを足して、味を自分好みの加減にする。

鶏肉と焼き豆腐をいれ、あまり煮立たせないよう、コトコト小さく沸くくらいの火加減にして、15~20分煮る。

弱い火で煮ると、鶏肉もかたくならないし、豆腐にもスが入らない。

オクラをいれ、さらに5分ほど煮たら出来あがり。



オクラと鶏の炊き合せ。

出汁の味がしみた、ほっくりやわらかいオクラは、なんともおいしいですよね。

豆腐に出汁の味がしみているのも、また最高です。



あとはスグキで、酒はお燗。

こういうものでお酒を飲むと、日本人に生まれてほんとに良かったなと思いますよね。