「和食」といえば、刺し身や煮物、焼き物、蒸し物、吸い物などが中心で、「炒め物」は一般に含まれません。
「精進料理」の大きな影響をうけた和食でしたが、中国で炒め物が行われるようになったのは、禅宗が盛んだった「宗」の時代以降のことで、そのころには日本は、中国とは異なった、独自の道を歩むようになっていたということなんでしょう。
だから現代、家庭で炒め物をするとなると、どうしても「中華風」になってしまう。
和食は「強い火力」に対応した料理法を編み出してこなかったため、中国のやり方に頼るしかなくなってしまっているんですね。
しかし「和食」で、「炒め物をしてはいけない」と決まっているわけではないでしょう。
和食が「日本の伝統的な料理のあり方」という意味だとしたら、それが時代とともに、新しい要素をとり入れながら、拡大してきたって悪くなかった。
和食の基本的な精神はそのままに、新しい技術をとり入れていくことは、単にこれまでされてこなかっただけで、やろうと思えばいくらだってできるはずです。
家庭で料理を作ろうと思うとき、短時間でできる炒め物は、やはりありがたいものでしょう。
それを中華風ではなく、「日本風」にやる工夫を、日本人としては、やはり考えたいところなんですね。
それではその、「日本風」とはいったい何かが問題となってきます。
炒め物を、いちばん単純に考えて、「肉と野菜」を材料にし、「醤油」で味付けすることにしてみます。
実際に作って、食べてみればわかりますが、これだと「ひと味」足りないんですね。
なんだかぼやけた、ぱっとしない味になってしまいます。
ところがここに、「ニンニク」を1かけくわえると、不思議なことに、肉や野菜の味がくっきりとして、格段においしくなります。
これが「中華」の手法だということなんですね。
ところが日本では、ニンニクはあまり好まれない。
ニンニク自体というより、ニンニクを食べた人の、あの「体臭」が、日本人にはダメなんでしょう。
だから、
「ニンニクを使わずに、どう炒め物ができるのか」
を考えることが、「和食の精神をふまえた炒め物」を工夫するうえでポイントになってくるといえると思うんです。
それでは今、それが日本で、どのように解決されているのかといえば、「味の素」なんですね。
味の素もニンニクと同様、料理全体の味を「くっきり」とさせる効果がある。
だからニンニクをあまり使えない、日本の中華料理店では、大量の味の素を使うことになってしまっているし、日本の家庭で炒め物をつくる場合にも、「鶏ガラスープの素」という名前の味の素を、多用することになっています。
しかし「自然の食材の味」を尊ぶ「和食の精神」からいえば、工場で人工的につくられた味の素は、あまり使いたくないところです。
そこで、
「ニンニクも味の素も使わない炒め物」
を、ぜひ工夫してみたいと思うんですね。
そのヒントは、じつは沖縄の料理にあったりします。
沖縄の代表的料理である「ゴーヤチャンプルー」は、肉とゴーヤや豆腐など野菜に、醤油で味付けし、最後に「かつお節」をふりかける。
このかつお節が、味の決め手になっているんですね。
味の素とは、けっきょくは「和風だし」の味だということです。
味の素の成分である「グルタミン酸」や「イノシン酸」は、昆布だしやかつおだしに含まれる成分と、おなじものなんですね。
だからかつお節やじゃこなどをうまく利用すれば、ニンニクも味の素も使わずに、おいしい炒め物ができるということなのではないでしょうか。
というわけで、昨日はまずは手堅く、ゴーヤチャンプルーを応用し、「タケノコチャンプルー」を作ってみました。
これはなかなか、悪くなかったですよ。
◎ タケノコチャンプルーの作り方
■ 材 料
・豚こま肉 150gくらい
・タケノコ 水煮のものを2分の1
・木綿豆腐か焼き豆腐 2分の1丁
・合わせ調味料 醤油大さじ1、酒大さじ2、水大さじ2、おろしショウガ1かけ分
醤油はうすくちを使うと、色がきれいに仕上がります。
・塩 少々
・かつお節 2gとか3gのもの1袋
・青ねぎ 適宜
・サラダ油 大さじ2+大さじ1
■ 作り方
タケノコは、2mmくらいの厚さで、好きな形に切っておく。
豆腐は手で、適当な大きさにちぎっておく。
ときどきフライパンをゆすって、焦げ付かないようにしながら、きつね色に焼けたら箸で1つ1つ裏返し、反対側を焼く。
反対側もきつね色に焼き色がついたら、皿にとり出しておく。
タケノコも豆腐も、火は通っていますから、炒めるのは火を通すためというより、豚肉のうまみを吸わせることが目的となります。
これで、調味料の味を、材料にしみ込ませます。
あとは味見をして、塩気が足りなければ塩少々をふり、さらに全体を混ぜれば出来あがり。
皿に盛ったら、かつお節を1袋分、たっぷりふりかけます。
これは「死ぬほどうまい」とまではいきませんが、手堅くおいしく、味のポイントとして、物足りないところは全くありません。
今回は色目もかねて、青ねぎをふりましたが、大葉をきざんだのをふっても、おいしいんじゃないかという気がしました。
ゴーヤチャンプルーのように、最後に卵で閉じてみても、またいいかもしれません。
炒め物は、ニンニクを使っていようが、使うまいが、残念ながら日本酒には合わないんですね。
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納豆とオクラ、それに梅干しで、「3色そうめん」としてみましたが、これがまたうまかったです。
◎ 3色そうめんの作り方
■ 材 料
・オクラ 5本
・納豆 1パック
・梅干し 2個
・かつお節 2~3gのもの1パック
・海苔 きざみでもちぎったものでも。適当な量
・そうめん 2~3束
■ 作り方
オクラはサッと塩ゆでし、小口切りにする。
納豆は、よく練って、付属のタレで味付けする。カラシはいれない。
梅干しは種をとり、かつお節2分の1パックといっしょに包丁でよくたたき、梅かつおにしておく。
そうめんを時間通りにゆで、ザルにあけて水で洗い、器にもる。
上に残りのかつお節と海苔をかけ、オクラ、納豆、梅かつををのせる。
かけるのは、めんつゆでもいいですが、かつお節がたっぷり入っていますから、生醤油で十分いけます。