2011-11-07

スペイン料理の素朴さを、堪能するならこれ。
ガルシア流・豚と野菜のスープ「カルド・ガジェゴ」


スペイン北西部、ポルトガルの北のあたり、イベリア半島を左を向いた人の顔とみれば、そのおでこのあたりにある、「ガルシア地方」の郷土料理に、「コシード・ガジェゴ(Cocido Gallego)」がある。

「コシード」はスペイン語で「料理」の意味。転じて「煮込み料理」を指し、「ガジェゴ」は「ガルシア地方の」という意味だから、コシード・ガジェゴはまさにガルシア地方を代表する料理ということになるのだろう。



スペインというと温暖な印象があるが、ガルシア地方はスペインの北の端だから、1年を通して雨がちで、冬になると山間部は雪に覆われる。

そんなガルシア地方で、寒い冬の日曜日、ママが大鍋をもちだし、暖炉の火で、朝からコトコト炊かれるのが、コシード・ガジェゴだ。

「外は寒くても、暖炉のぬくもりとともに、コシード・ガジェゴのにおいが漂ってくると、家中があたたまる・・・」

ガルシアの男たちは、そう言いながら、やさしく笑う。



コシード・ガジェゴに入れられるのは、ガルシアの農場の、農作物と畜産物のいっさいがっさい。

キャベツの一種であるベルサス。カブの一種であるグレロ。白いんげん豆。じゃがいも。

豚肉の塩漬け。豚の脂身。牛肉。生ハム。血詰めソーセージのモルシージャ。チョリソ。

まずそのスープだけを、パスタをいれて味わい、最初は豚肉類と野菜の皿。次に牛肉の皿。最後に腸詰類と豆の皿。

ガルシアの自然の恵みを残らずお腹にいれ、体も心もあたたまる。

参考



「カルド・ガジェゴ(Caldo Gallego)」は、このコシード・ガジェゴの、スープの部分だけを取り出した省略形で、スペインのレストランや家庭では、こちらをおもに食べるとのこと。豚の塩漬け肉に白いんげん豆、カブにじゃがいもがはいったのが、一般的なのだそうだ。

昨日はこれを、家で作ってみた。



豚の塩漬け肉は、日本では手に入らないため、豚のスペアリブをつかう。しかし昨日、スーパーに売ってたのは、バックリブ。

ここに塩を少々と、白コショウ、タイム、オレガノを、「多めに」まぶしておく。調味料は手でたたいてよくすり込んで、30分か1時間くらい置いておいても、悪いことはないだろう。

白コショウ、タイム、オレガノとも、家にはなかったので新たに購入。

新しい調味料がふえるのは、場所もふさぐしできれば避けたいが、「その土地の味」を決めるのは調味料だから、ヨーロッパの料理を作ろうと思ったら、このくらいは揃えておく必要があるだろう。

フライパンにオリーブオイルをいれ、豚肉を中火で焼き、余分な油をおとす。

焼けた豚肉は鍋にいれ、水をたっぷりと張り、塩ひとつまみとローリエ1枚。

強火で煮立てたら、あとは弱火にし、フタをして、コトコトと1時間ほど煮る。途中で水が少なくなれば、適当に足してもよい。

塩は豚肉にもふってあるから、少なめにしておいて、最後に味をみて、たりなければ足すようにする。

ほんとうはここに、一晩水につけた白いんげん豆を一緒にいれるのだけれど、スーパーには白いんげん豆が、売っていなかったので省略。

絶対に売っていると思ったカブが、昨日はスーパーに置いてなかった。そこで代りに大根。

皮をむき乱切りにした大根を、生のままいれ、30分ほど煮る。

そしてじゃがいも。適当な大きさに切る。冷蔵庫にはいっていた、カブの中抜き菜の塩漬けも、塩抜きをしていれてみた。

参考にしたレシピによれば、カブとじゃがいもは「30~40分」煮るとのことなのだが、カブもじゃがいもも、10分もあれば十分火が通るのだから、それではあまりに煮くずれてしまうだろう。

そう考えて、昨日は、煮時間20分。

20分でも、じゃがいもは、かなりやわらかく煮くずれていた。

最後に味をみて、塩コショウで味をととのえれば出来あがり。




このカルド・ガジェゴ、まさに「素朴」を絵に描いたような味。世の中から「素朴」をひとつ選べといわれれば、かなりの確率でこれになるんじゃないか。

塩コショウにハーブだけで味付けされた、濃厚な豚の出汁。日本でいえば、「吸物」ということになるのだろう。自然の恵みをそのまま味わうのに、まさにふさわしいやり方だ。

大根にじゃがいもは、豚の出汁をたっぷり吸って、やわらかく煮えている。豚肉もホロホロにやわらかい。

最小限の味付けで、ただ煮込むだけの、超簡単料理だが、心も体も、しみじみとあたたまる。

スペイン語で、「料理」を意味する「コシード」が、「煮込み料理」の意味に転じたことからもわかる通り、スペイン料理の源流のひとつが、おそらくここにあるのだろう。

檀一雄がスペイン料理を愛したのも、この素朴さゆえだったのだろうな。