2011-11-04

スペイン・アラゴン地方のおふくろの味。
「鶏肉のチリンドロン煮」


檀一雄「檀流クッキング」に紹介されいてるスペイン料理を、ひと通りつくってみて印象的なのは、スペイン料理が存外にさっぱりしていることだ。これまでスペイン料理とイタリア料理の区別も、まったくついていなかったのだが、スペイン料理はイタリア料理とは、ずいぶん趣きがちがう。

イタリアといえば、まず何といっても「パスタ」なわけだけれど、スペインの代表的料理は「パエリア」で、これは米料理となっている。またイタリアといえば、「トマト」の印象が強いけれども、檀が紹介する料理には、トマトを味のベースにしたものは、ひとつも出てこない。そのかわりスペイン料理では、「サフラン」が多用される。

ヨーロッパ料理の中心は、やはり何といっても古代ローマ帝国の中心地であったイタリアなのだろうけれど、それにたいして、スペインはやはり「辺境」ということになるのだろう。

ネットでちょっと調べてみると、スペインは、北西アフリカに起源をもつ「ムーア人」に、長く統治されていたのだそうだ。ムーア人が米やサフランをスペインにもち込んだというから、スペイン料理はローマを起源とするヨーロッパ料理とは別に、南方の料理の影響もうけたということだ。

そういうスペインの、地理的、歴史的条件は、古代より文化の中心地であった中国にたいする辺境であり、また中国とは別に南方からの文化の影響もうけている日本と、似通うところがあるようにも思える。

檀一雄はスペインやポルトガルがたいへん好きで、晩年にはポルトガルに1年以上、住んだりもしているわけだけれど、それはスペインと日本とが、このように共通するところがあるからなのか。



スペイン料理に興味がわいたので、冷蔵庫にまだ残っている、パセリやらレタスやら、日本食には使いづらい材料を整理する意味も兼ね、昨日もスペイン料理をつくってみた。名前が可愛いらしいのだが、「鶏肉のチリンドロン煮」。

チリンドロンはスペイン北東部・アラゴン地方の郷土料理で、玉ねぎやトマト、ピーマンなどを炒め煮にしたソースのことだそうだ。

「チリンドロン」という言葉自体は、スペイン式のトランプのことだそうで、このソースがトランプのようにカラフルな色をしているから、その名がつけられたとのこと。スペインの料理は、オリーブオイルやら、サフランやら、黄色が中心の料理が多いから、この料理がトマトで真っ赤になるのが、カラフルに見えたということか。

このチリンドロンで鶏肉を煮ると、「鶏肉のチリンドロン煮」ということになる。



鶏肉のチリンドロン煮では、まず「骨付き」の鶏肉が使われることが特徴だそうだ。

ネットのレシピには、「骨付きのもも肉」を使うとなっているものが多いが、スーパーにはクリスマスシーズンでもないと、骨付きの鶏もも肉はなかなか出てこない。それで今回は、手羽元を使用。

鶏肉には、塩コショウをすり込んでおく。

本当はさらに「ハム」を使うのが、鶏肉のチリンドロン煮の特徴だそうだが、今回は省略した。

またピーマンには、「赤ピーマン」を使うのが特徴なのだそうだが、今回は冷蔵庫に残っていた万願寺とうがらし。

オリーブやマッシュルームなどを入れたりもするみたいだが、今回はやはり冷蔵庫に残っていた、しいたけ。

玉ねぎとニンニクは、みじん切り。

それにトマト缶。このトマト缶は98円だから、生のトマトを買うより安い。



鍋にオリーブオイルをいれ、鶏肉を焼く。火加減は中火。

テフロンのフライパンを使ったほうが、焦げ付いたりしないのだが、フライパンだと煮込むとき、鶏肉が顔を出してしまいそうだったから、今回は片手鍋ひとつですべてやってみた。

鶏肉をいったん取り出し、そこにオリーブオイルを足して、玉ねぎとニンニクをすこし炒める。これも火加減は中火。

野菜をいれ、かるく炒める。

野菜に油がまわったら、鶏肉を鍋にもどし、トマト缶を投入。水も1カップほど入れる。

ローリエをいれると書いてるレシピもあるが、今回は省略。

塩をひとつまみ入れ、30分ほど、弱火でコトコト煮込んだら出来あがり。

これは「スープ」ではなく「ソース」だから、煮時間と火加減を調整し、あまりシャバシャバにならないようにしたほうがいいのだろう。

最後に味を見て、味が足りなければ塩を足す。

ネットのレシピには、パセリをふりかけるとは書いてなかったが、べつに冷蔵庫にあまっているパセリをふりかけても、悪いわけではない。




なるほどこれは、いかにも田舎の、「おふくろの味」といった趣きの、素朴な料理。日本で鶏肉を、レンコンなどの根菜といっしょに甘辛く炊くのと、同じようなものなのだろう。

ただこれは、食べていてやはり、一味足りない。ハムを入れるというのは、まさに正解で、ここにハムのうまみがあれば、たしかにもっとうまかっただろうなと思った。

しかしここで、味が足りなければ、イタリアだったら粉チーズをかけるところなのじゃないか。トマトソースに粉チーズをかけるのは、日本のパスタ屋ではおなじみだ。

チーズを使わず、ハムを使うというのが、「スペイン風」ということなのかもな。

この料理では、トウガラシも使わないみたいだ。

参考レシピ




あとは、なんちゃってスペイン風、たまごサラダ。

細かく切ったレタスを、みじん切りしたニンニク、玉ねぎ、塩コショウ、ポッカレモン100にオリーブオイルで和え、くだいたゆで卵を黄身も白身も、それからパセリをふりかけた。食べるときに全部をまぜる。

なかなかイケます。




スペイン風の食卓には、パンは欠かせない。オリーブオイルとパンが、またよく合う。

これで白ワインを、コップに2杯。



おととい、檀一雄の文を読みまちがえて、「トンガラシ焼き」という料理があると思い、青唐辛子をただ焼き、オリーブオイルと塩をふりかけた料理をつくってみたのだが、なんとスペインにも、それと似たような料理が、実際にあり、バルにもよく出てくると、ポルトガルに住んでいるという人から、コメントで教えてもらった。


「Pimenta de Padron」と呼ばれるもので、ピーマンの一品種みたいだが、日本の青唐辛子にそっくりだ。

それをオリーブオイルにニンニク、すこしの塩で、素揚げするのだとか。

やっぱりね。僕もスペインのバルで、こういう料理を見た記憶があったんだ。

ウソ。