2011-10-30

いぶし銀のような味。「鯖の船場汁」


鯖はしめ鯖や塩焼き、煮付けなどにして食べるのがふつうだろうが、鍋に入れてもたいへんうまい。鯖を鍋に入れるというと、臭みが出るのじゃないかと心配するかもしれないが、新鮮なのをつかい、きちんと下処理すれば、臭みなどまったくない。これから鯖のシーズン真っ盛りになるにあたり、鯖の食べ方の1つとして、おさえておくのは悪くない。

じっさい鯖は、「船場汁」という名前の、汁物の実としてつかわれる。もっともこれは、大阪の問屋街・船場で、丁稚に食べさせる食事の費用を浮かすために、ただでさえ安い鯖を、切身で食べさせるだけでなく、ふつうならつかわない、アラまでつかって出汁をとったという、節約料理の代表格だ。

しかし動物を、せっかく食べるなら、頭から足の先まで無駄なくつかうのは、生活の知恵だろう。またそうして無駄なく食べてやるからこそ、食べられた動物も、よろこんで成仏することになる。



じつは今週の月曜日から、鯖がないものかと毎日魚屋をのぞいていた。魚は肉とちがい、養殖モノは別として、なかなか安定供給ができないから、欲しいとおもっても、店ですぐ買えるとはかぎらない。また新鮮で安い出物が、いつ出るかもわからないから、魚を食べようとおもったら、臨機応変の態勢が必要となる。

昨日ようやく、銀色にかがやく、なんともうまそうな石川県の鯖が、1尾600円で売っていたから、それを魚屋で3枚におろし、塩をふってもらい、半身はしめ鯖にして翌日食べ、残りの半身とアラは、船場汁にすることにした。スーパーでふつうに切身を買ってきたって、それを汁に入れれば十分うまいが、アラがあれば、なおさらいい味が出るのは言うまでもない。

ぶつ切りにした切身とアラは、湯通しする。スーパーで生の鯖の切身を買ってくるばあいは、塩をふってしばらくおくか、湯通しするかの、どちらかで問題ない。

まず鍋に昆布出汁をとる。

沸騰したら昆布をとりだし、アラを入れる。ていねいにアクをとりながら、10分ほど煮る。こうやって塩をふり、湯通しし、アクをとれば、鯖の臭みが出ることはまったくない。

アラを引き上げたら、その汁で大根を煮る。船場汁は、「鯖と大根」が基本だ。

大根がやわらかくなったら、味付けをする。問屋街の船場汁には、酒など入っていたわけがないが、家庭ではたっぷり入れる。あとはみりんと、(淡口)醤油。味付けはくれぐれも、濃すぎないよう気をつける。

味付けしたら、鯖の切り身をいれ、アクをとりながら5分ほど煮る。

あとはここに、何でも好きな野菜をいれれば出来あがりだ。昨日は豆腐と、ほんとうはしめじを買おうとおもったら、まちがって買ってしまったえのき茸、それに春菊。



唐辛子をふって食べる。ぷりぷりとした鯖と、やわらかく煮えた大根は、「ベスト」ともいえる取合せだろう。

残り汁は、うどんにする。金色にかがやく鯛の出汁は、まさに王道の味だが、鯖の出汁は、「いぶし銀」のような、独特の風情がある。



昨日は、おとといの「しめサンマ」も食べた。しめた魚は、当日もいいが、1日おくと、味がなじんでまたうまい。