2011-09-24

韓国人のユキちゃんに作ってもらったプルコギ


別居した直後は、言うまでもないことだが、寂しくてやりきれなかった。今まで家族がいた家に、一人きりで住んでいる。ついこないだまで聞こえていた子供たちの声が、今はもう聞こえずしんと静まり返っている。これにはさすがに耐え切れず、しばらくは激しく飲み歩くこととなった。

職場のあった渋谷で、仕事仲間と飲むにとどまらず、自宅があった蒲田でも、あっちの店こっちの店と、夜な夜な渡り歩いた。


蒲田は東京の最南端のどん詰まりにあり、JRの駅に加えて、東急池上線、目黒線の始発駅ともなるちょっとしたターミナルなのだが、JRで急行に相当する東海道線が、品川から蒲田を通り越して隣の川崎まで行ってしまうためか、垢抜けたところがない街だ。最近駅ビルが改装されてきれいになったが、依然として駅前は、東口も西口も、古い雑居ビルが所狭しとならび、サラ金の看板とパチンコ屋がやけに目立つ。

西に京浜工業地帯の小さな町工場群を抱え、歴史的にそこの労働者が飲みに来る街だったのだろう、ガード下やら細い路地やらに、小さな飲み屋が密集している。タクシーの運ちゃんに聞いた話だが、飲み屋の軒数としては、蒲田は新宿より多いのだそうだ。

今はもう、新しく東京都の条例ができて、そんなことはなくなってしまったのだが、10年ほど前までは、夜9時頃蒲田の駅を降りると、駅前にふんわりとしたパーマをかけた長い髪に、濃い目のメークをばっちりと決め、ロングドレスを着た、背が高く痩せたお姉さん方が何人も、駅前で待機して客引きをしていたものだ。さらにその向こうには、今度は中国人のお姉さん方が、マッサージの客引きをしていた。

そんな怪しい街に住んでいたものだから、別居の寂しさから、そのお姉さん方のいる店の一軒一軒を訪ねることになってしまったのは、仕方が無いことだっただろう。


その中で一軒、特に通いつめたのが、韓国エステの店だ。西口のロータリーから小さな路地を入ったすぐのところにある、雑居ビルの3階にあったのだが、その店のユキちゃんという女の子に、僕は完全にハマってしまった。

ユキちゃんは当時29歳だったのだが、韓国人の女の子は、時々ものすごく若く見える顔立ちの子がいて、どう見ても23、4にしか見えなかった。韓国のホテルで美容院を経営していたが、それに失敗して負債を抱え、まだ幼稚園に小学生だった娘二人を韓国の親戚に預け、日本へ出稼ぎに来ていたのだ。

日本に来たばかりの頃で、僕が初めての客だったとのこと、泥酔した僕を慣れない手つきでマッサージしてくれたのだが、寂しい男は、隙のないプロより、素人臭い女に惹かれるものだ。それからというもの週に2~3回のペースで、その韓国エステに出かけ、ユキちゃんにマサージを受けるようになった。


それだけ常連になると、店に行くとマッサージだけでなく、ユキちゃん手作りの韓国料理を出してくれたりするようになる。さらにユキちゃんとは、店に内緒で個人的に付き合い、家に呼んだりもするようになったから、その時にもずいぶん、韓国料理を作ってもらった。

もう忘れてしまったものも多いのだが、作ってもらった韓国料理のうち、強く印象に残っているものの一つがプルコギだ。ニラが欲しかったユキちゃんは、「ニラ」という日本語が分からず、「細長くて緑色の野菜」というから、青ネギを買ってきて手渡したら、「これは違う」と言いながら、けっきょくその青ねぎを使っておいしいプルコギを作ってくれた。

不思議とそれから、自分でプルコギを作ることはなかったのだが、先週10数年ぶりに作ってみて、ちょっと失敗したから、昨日もう一度作ってみたというわけだ。



材料はまず牛肉。薄切りの肉なら何でもいいが、グルメシティでは木曜の特売日で牛コマ肉を安く出すので、昨日はそれを使った。それからニラ、玉ねぎ、ニンジン、昨日はそれに加えてシメジを入れた。プルコギに普通何が入るのか、ユキちゃんは当時何を入れたのか、ちゃんと覚えていないが、ニラと玉ねぎは間違いない。昨日はこれに彩りのニンジン、食感のシメジで、全く問題なかった。

調味料は、まず砂糖。韓国料理は、意外と思う人もいると思うが、砂糖を多用するのだ。それから醤油。酒とみりん。ここまでは日本の調味料と全く同じことだから、肉じゃがを作るのと同じような感覚で、ジャバジャバと入れていく。

しかし韓国料理だから、当然ここにニンニクが入る。ユキちゃんがプルコギを作っていた時にも、びっくりするほど大量のニンニクを入れていたのだが、今回も株になっているニンニクの半分ほど、5かけくらいを入れてみた。でも食べてみたら、この肉と野菜の量なら、もっと入れても良かったかもしれない。あとはゴマ油をだらりだらりと振りかける。


以上の材料をフライパンに全て入れ、これを手でよく混ぜ合わせる。手を使うのが、韓国料理独特のやり方なのだよな。両手を使い、野菜と肉に、調味料を揉み込むようにしていく。韓国では、料理の味を、「オモニ(お母さん)の手の味」と表現したりもするそうだ。

あとはこのままフライパンを強火にかけ、肉に火が通り、野菜がしんなりしたら出来上がり。火にかけると、すぐに大量に水が出てくるので、プルコギが日本語で「焼肉」と訳されるわりには、焼くというより蒸し焼きのような形になる。焼肉屋などでは、ジンギスカン鍋のような、中央が丸く盛り上がった鉄板を使い、汁がまわりに垂れることにより、肉と野菜がきちんと「焼ける」ように工夫していたりもするが、ユキちゃんはフライパンでやっていたから、家庭ではこれでいいんだろう。


前回プルコギを作った時は、ショウガを入れてしまったために、プルコギだかショウガ焼きだか分からないものになってしまったのだが、今回はちゃんと、完璧なプルコギ。この作り方で、きちんとプルコギになるのは間違いない。

プルコギは、肉と野菜から染み出してくる汁が、また非常にうまい。この汁をご飯にかけて食うと最高なのだが、今日はご飯がなかったのが残念だった。



昨日はあまりにいい天気。しかも休日だから、街ものんびり静まり返り、ほんとは色々やろうと思っていたのに、全くヤル気にならなかった。



朝飯はいつも通りのうどん。



昼飯は、これもいつも通りの、ビールに塩焼きそば。これは何度食っても、ほんとにたまらん。酒に風味づけ程度の醤油、ニンニクとショウガ、それに塩コショウで味付けする。