2011-08-01

魚は焼くより煮付けた方が、一人暮らしには手間が省ける


一人暮らしを始めて、慣れないスーパーなぞへ行ってみると、目に止まるのは今なら「サンマ」とかだろう。
今はまだちょっと高いが、これからサンマは安くなるから、脂ののったサンマに塩をふって焼くというのは、
「安く手軽においしいおかずを作る」
という意味では非常に正しい。
僕も毎年、サンマ君にはとてもお世話になる。

ただ「おかず」と考えると正しくても、「献立」というところから考えると、サンマの塩焼きは一人暮らしの料理として、かならずしも正解とは言えない。
サンマの塩焼きを
「きちんとした食事に組み込む」
ためには、けっこうな手間がかかるのだ。

サンマを塩焼きすれば、当然大根おろしを添えたくなるだろう。
それにサンマだけじゃ、おかずとして寂しいから、やはりほうれん草のおしたしくらいは加えたいところだ。
これに冷奴くらいを付けて酒を飲むとなればまだいいが、ご飯を炊いて味噌汁を付けてとなると、火を使うものを4品も揃えなければいけないことになる。
炊飯器があったにしても3品。小さなワンルームマンションの一口のコンロでは、けっこうな手間だし時間もかかる。

料理をする時には、おかずだけじゃなく、食事の献立全体のことを考えないといけない。
おかずのところで一見手間を省いているように見えても、献立全体で手間がかかっていては意味がないのだ。

魚の場合、たしかに「塩をふって焼く」というのは、どんな魚にも通用する、黄金の調理法だ。
でもそれよりも、
「煮付け」
「汁」
など、「煮る」ようにした方がはるかに手がかからない。
魚を煮るその煮汁には、おいしい魚のうまみがたっぷりしみ出している。
この煮汁を使うことにより、同時に他のものをおいしくすることが出来るからだ。

「煮付け」というと、初心者にはかなりハードルが高いもののように思われるかもしれないけれど、全然そんなことはない。
塩をふって焼くだけよりは、多少手はかかるが、難しいことはないし、献立全体としては非常に手間が省けることになる。


◆ イワシ梅煮の材料


イワシの梅煮だから、当然まずイワシ。
イワシはいつ見ても、だいたい安く売っていて、昨日はスーパーで、3尾150円。
今ならまだサンマよりもぜんぜん安い。

魚の煮付けに合う野菜といえば、なんと言っても「ゴボウ」が鉄板だ。
これはどんな魚の煮付けにもかならず合う。

ゴボウに次ぐのは大根。
これもそこそこ煮付けに合う。
今回はゴボウを使ってみた。

それから梅干し。

それに豆腐。そして素麺。
これだけあれば、食事に必要なひと通りの栄養はまかなえてしまうことになるわけだ。


◆ 材料の下処理

イワシはスーパーで、頭を落としているのを売っている場合もあるが、だいたいは頭もハラワタもついた、まるまるのものを売っている。
早い時間帯ならばスーパーで頼めば、頭を落としてくれるけれども、なに、こんなものはべつに難しくもないから、自分でやってしまえばいいのだ。

イワシの頭と胴体の間のところを、包丁でぐさりとギロチンして切り離す。
ハラワタは、お腹の下の部分を割いてしまってかまわないから、指でていねいにかき出す。

「イワシをギロチンするのは気味が悪い」
などと言ってはいけない。
こういう機会に、人間は自分の命を守るために、他の生き物の命を犠牲にしていると知ることは大事なことだ。
「イワシさん、いつもありがとう」
と心でつぶやきながらギロチンしよう。

イワシはギロチンして、ハラワタをかき出したら、外も中も水でていねいに洗う。
ここでぬめりやハラワタのかけらなどが残っていると、あとで「臭み」の元になる。

ゴボウは、「洗いゴボウ」というのを買ってくれば手軽だが、べつに土の付いているやつだってかまわない。
まずゴシゴシ洗うのだが、僕はこれは、食器を洗うネット付きのスポンジでやっている。

スポンジは、いちばん新しいのは食器を洗う。
古くなったやつは、ゴボウやジャガイモなどの土付きの野菜を使ったり、フライパンを洗ったりする。
さらに古くなったので、流し台やら換気扇やらを洗う。

ゴボウは洗ったら、べつに皮とかは剥かなくていいから、そのまま斜め切りにする。

豆腐は、僕は木綿豆腐を使うが、絹ごしが好きならそれでもいい。
食べやすい大きさに切っておく。

「イワシの梅煮」だから、梅干しを入れる。

普通サイズの梅干し1個分を、包丁で叩いておく。
そんな一生懸命叩かなくても、軽くでいい。


◆ イワシ梅煮の作り方

まずは素麺をゆでる。
麺をゆでるには、フライパンがいちばん便利だ。
素麺のゆで時間は2分だけれど、あとでまた温めるから、多少かためにしておいてもいい。
まあでもあまり神経質にならなくても、適当でいい。

ゆで上がったらザルにあけ、水でもみ洗いして、水気をよく切っておく。

フライパンにイワシとゴボウ、それに梅干しを並べる。
あとで食卓にフライパンごと出すから、食卓に出した時に見栄えがいいように並べるようにする。

そこに、「水と酒あわせてカップ1杯分」を入れる。
ここで酒の分量は、多いほどうまい。
僕は水と酒を半々にする。

これにさらに、砂糖とみりんを入れて火にかける。
砂糖は、僕はスプーン山盛りで2杯くらい。
みりんは「じゃばじゃばじゃば」と適当に入れてみる。

砂糖もみりんも、
「多ければこってりするし、少なければあっさりする」
というだけの話で、どのくらい入れるかは、完全に好み次第なのだ。
砂糖も、もっと入れてもいいし、もっと少なくたっていい。

火は強火。
沸騰してきたらアクが出るから、これはできるだけていねいに取る。
肉のアクは「うまみ」だから取る必要がないが、魚のアクは「臭み」になるから、ていねいに取っておいたほうがいい。

アクをひと通りとったら、しょうゆを入れる。
これは慎重に、味を見ながら、
「まだちょっと甘いかな」
というくらいにしておく。
しょうゆはいきなり全部入れてしまわないで、最後に足すようにしたほうが、材料への味のしみ込みも良くなるし、しょうゆの風味を損なわないことにもなる。

しょうゆを入れたら、キッチンペーパーを上からかぶせ、すこし煮る。

煮はじめたら、火加減は
「強めの中火」
という程度。
煮汁がきちんと沸き立ち、材料の上にかぶっていく程度にまで大きくする。

沸騰しはじめてから5分たったら、キッチンペーパーを取り、ペーパーにしみ込んだ煮汁を箸とスプーンで絞って、ペーパーは捨てる。
ここで味を見て、しょうゆが足りなければ足すようにする。

それから豆腐を入れる。
煮ながら、スプーンで煮汁をすくって、豆腐やらイワシやらの上からかけてあげる。
こうして味をしみ込ませるのだ。

そして素麺を入れる。
箸でほぐして、煮汁をすこしからめたら火を止める。

煮時間は、沸騰しはじめてから火を止めるまで、7~8分。
イワシなどの小さな魚の場合は、これ以上火を通すとパサパサになってしまうから、煮時間だけには気を付ける。

青ねぎでもふって、フライパンのまま食卓へ出してしまおう。
こうやっていろいろ入っていると、フライパンのまま出しても、むしろおしゃれな感じになる。
もちろん言うまでもなく、これは食器を洗うのを節約するためでもある。

「イワシ梅煮」は、イワシの臭みが、梅干の風味によって消されるようになっている。
梅干し風味のおいしい煮汁が、ゴボウやら豆腐やら素麺やらにしみ込んで、これはほんとにたまらないですよ。


◆ まとめ

今回の「イワシ梅煮」のやり方は、もうそのまま、ほかの魚を煮付けるために応用できる。

イワシの臭みを消すために梅干しを入れたが、「鯛」や「かれい」など臭みの少ない魚だったら、梅干しを入れる必要はない。
「サバ」などの場合には、梅干しではなく刻んだしょうがを入れてもいい。

煮付ける場合、とにかく「煮時間」が命で、イワシのように小さな魚や切り身などなら、7~8分がいいところ。
絶対に10分は超えないようにする。
アラなど大きめのものを煮付ける場合は、15分程度。

強めの中火で7~8分煮つづけて、ちょうどいい具合に煮詰まる水分(水+酒)の量が、カップ1杯。
これより長い時間煮るときは、水分の量もふやすようにする。


◆ 煮付けに合う酒

魚の煮付けに合うのは、圧倒的に日本酒なのだ。
日本酒は飲みなれないと、あの独特な匂いが鼻につくものなのだけれど、慣れるとまったく気にならなくなる。
酒は毎日飲んでこそ、うまさが解ってくるものなのだ。
匂いが気になる人は、冬なら熱燗、夏なら冷やして飲めば、たしょう匂いがおさえられる。

日本酒は他の酒と違って、飲むほどに「とろん」としてくる。
焼酎やビール、ウィスキーなどは、飲むとギンギンに頭が冴えてきてしまったりして、寝れなくなってしまう場合もあるのだけれど、日本酒はまったくそんなことはない。
つくづく品のよい酒なんだよね。

昨日は広島、賀茂鶴 本醸造爽快辛口。
辛口の酒は、「淡麗辛口」という、すっきりしているだけのものが多いのだけれど、これは違う。
辛口で、たしかにすっきりしているのだけれど、かなり強い、上品なうまみが入っている。
これが飲むと、辛みとうまみが手を取り合って、口の中でダンスをしているようなのだ。
ほんとにうまい。

あまりにうまくて昨日は飲み過ぎそうになったが、なんとか2合半でやめておいた。