2011-05-29

名古屋ナイト

べつに僕は地域に優劣をつけるつもりはないし、どこへ行ってもその土地ならではの良さがあり、僕は日本の何カ所かに住んでみて、そういうことを発見することが、とても楽しいことだということを知ったのだけれども、僕が今まで住んだ場所のなかでも、名古屋はとてもいいな、好きだなと思う場所のひとつだ。いやもちろん、広島へ行けば、広島がいいと思うのであって、いま名古屋にいるから、そう思うということなのだけれど。

名古屋に行って、いつもまず思うことは、新幹線なり高速バスなりで名古屋駅の太閤口の側に着いて、それから駅構内のコンコースを歩いて桜通口まで行って、地下鉄なりなんなりに乗るということになるのだけれど、その時に、すれ違うたくさんの名古屋人たちの顔が、つくづく自分勝手な顔をしているのだ。

東京などではこれはまったく違って、東京のひとはみな同じ顔をしているし、それが下を向いて足早にすたすた歩いて、かっこよかったり、きれいだったりはしたとしても、あまり楽しそうだったりするという感じはしない。ほかの地域へ行っても、その地域独特の顔があるなとは思ったりするのだけれど、名古屋の場合、ほんとに「自分」をいうものを丸出しにして、ひとが街を歩いている、という感じがするのだ。

こちらは男だから、女の子のファッションに目が行ったりすることが多いのだけれど、名古屋のファッションというのは、たとえば東京なら、いま流行りのスタイルというものがあって、そこに自分を合わせるというのが、着飾るという意味だったりするのだと思うのだけれど、名古屋の場合、もちろんそういうことも色々考えはするとは思うけれど、より自分の好きなものを着る、という感覚が強いのじゃないかという感じがする。

だからひとによって、けっこういろいろ、違う格好をしているし、また逆に、ルイ・ビトンとか、ブーツとか、これがいいとなると、他人にかまわず、みなおなじ格好になってしまったりもする。いずれにしても、他人がどうであるということをあまり気にしている気配がなく、あくまで自分だという感じなのだよな。

僕は以前、これはこのブログにも書いたことがあるのだけれど、名古屋に住んでいたときにドライブに行って、名古屋からほど近いサービスエリアに入って、そこでそばを注文した時、ならんで待っていた時に聞こえた、店長らしきひとの店員にたいする指示が、ほんとに笑えたことがある。

その日は連休だったから、サービスエリアはものすごく混んで、麺コーナーのおばちゃんたちはてんてこ舞いしていて、だから店長が直々に、麺コーナーの前に立って、お客をさばいていたというわけなのだけれど、
「○○さん、そうやって自分の作りたいものから作らないで」
という指示を発していたのだ。名古屋のおばちゃんは、そうやって注意しないと、食券が出される順ではなく、自分が作りたいものの順に、うどんなりそばなりを作ってしまうということなのだろう。

僕はこの出来事に、ある意味、名古屋が象徴されるような気がしているのだが、そうやって皆が、まず第一に自分のことを考えるということが、僕などが名古屋にいて、とても居心地がよい理由であるという気がする。

そういう自分第一とも見える名古屋人なのだが、ひとのつながりは滅法強い。僕は前の職場で、全国のいろいろな場所を見たけれど、ひとのネットワークの濃さというのは、名古屋が随一であった気がする。僕が名古屋にいたころに、毎日のように通ったフランス風居酒屋「ブラッサリー・アブサン」の、常連仲間というのが10人近くいて、それが僕の送別会をその店でやってもらったことをきっかけに、定期的に集まり始めて、僕が名古屋を離れて、もう3年がたつというのに、いまだに僕に誘いをかけてくれる。そのひとたちに聞いたら、そこに集まるひとたちは、名古屋の中でもとくべつ濃いひとたちばかりが集まっているとのことだったけれど、その仲間のひとりの家に集まって、会費制で、彼女が作ってくれる料理に舌鼓を打ち、みなで勝手なことをしゃべる、という会だ。

きのうも夜の8時からスタートして、気付いたら3時近くまで、他愛もない話に花が咲いた。みんなとにかくよくしゃべるひとたちで、僕もどちらかといえば、かなりしゃべるほうで、酔っ払ったりすると、気付くと延々と、ひとりで語りまくっていたりするタイプなのだが、そこでは聞き役にまわることも多い。でもそうやって、ひとの話を聞いていると、「今日は静かだけれど、どうしたのか」とみなが心配してくれたりするのが、また笑えるところだ。きのうは洋食で、シャンパンやワインを飲みながら、自家製のピザだの牛肉の煮込みだのをぱくついて、またほんとに楽しいひと時を過ごした。

それが引けたあと、ラーメンを食べようという話になって、そこからすぐ近くの、「牛すじラーメン」の店へ行った。ほんとの牛すじラーメンは、もうスープが終わってしまって、ふつうの醤油ラーメンとのことだったのだけれど、これはハーフサイズだが、牛すじの煮込んだものが乗っていて、スープは醤油だというのだけれど、八丁味噌が加えられているようだった。僕はこないだ、牛肉を八丁味噌で煮て、すごくおいしかったわけなのだが、やはりこのやり方は、名古屋でもやるんだな。