2010-08-15

福 耳


もう2年も前の曲だから、何を今さら、という話しなのだけど、この福耳「DANCE BABY DANCE」はいいな。
前からちょこちょこ目にして、いいなとは思っていたんだが、昨日からYouTubeで見だしたら一気にハマって、今じゃボーカルの杏子さん、とすでにさん付けなのだが、のファンクラブに入ろうかとすら思っている。

まず何といっても曲とボーカルが圧倒的によく、僕はとくに、こういうジャリジャリとしたギターが全面にでた曲と、こういう姉御肌の女性が好きだということはあるのだけれど、まあしかしこのプロモーションビデオのよさは、それだけではないのだよな。
流れる空気が、なんとも言えずによい。

この「福耳」というのは、定常的にやってるグループではなく、毎年夏のイベントに向けて、「オフィスオーガスタ」という芸能事務所の所属アーティストの総勢によって結成されるユニットで、バックには山崎まさよしスガシカオ元ちとせスキマスイッチなど、当代の人気アーティストが軒並み出演している。
事務所が所属アーティストを宣伝するための、ショーケースみたいなものなわけだが、皆が同じ事務所だから、ということはあるのだろう、なんとも仲がよさそうな、仲間的な雰囲気をかもし出している。
それがたまらないのだよな。

しかしこの仲間的な雰囲気、この数分という短い時間の中で表現するというのは、たぶん実は至難の業で、実際、同じ福耳の、以前の曲のプロモーションビデオ、やはり同じ、「仲間」というコンセプトで作られたのじゃないかと思われ、それぞれが仲良さそうにする場面が挿入されているのだが、この「DANCE BABY DANCE」から流れてくる、感動的ともいえる空気は感じられない。
ただ仲間内で仲良さそうにしているのを、こちらは外から見せられている感じがしてくる。
そう思って、「DANCE BABY DANCE」のビデオをよく見ると、緻密な計算が随所にほどこされていることに気付くのだな。

まずこのビデオは、完全に杏子さんを主役にすえている。
いくら同じ事務所だからとはいえ、それぞれ独立したタレントだから、こういう場で誰か一人をフューチャーするというのは、なかなか難しいのじゃないかと思うが、この福耳が社長の肝いりでやってることであり、また所属事務所の上下関係的に、杏子さんがいちばんキャリアが長いということで、それが許されるということなのだろう。
さらに杏子さんの妖艶なムードを増幅し、このビデオの中心が、あくまで杏子さんであることを強調するために、ときどき、これはよく見たら杏子さんではないのだが、水着姿のダンサーの映像まで挿し込んである。

その上で、山崎まさよしとスガシカオを、杏子「姐さん」に仕える舎弟であるかのように描き、また他の若手男性陣は、子分であるかのように描いている。
さらにいつもはおでこを出す元ちとせの、前髪を下ろさせて、清純に見えるようにして、これを杏子さんの妖艶と、対置させるようにしている。
こうして上下関係をつけ、対をつくることによって初めて、それぞれのキャラクターが全体の中に位置付けられ、それが「仲間感」というものをかもし出すことになっているのだと思うのだ。
このビデオを作った人、誰だか知らないが、かなりのテクニシャンなのだと思う。
事務所の社長のアイディアなのかな。

しかしまたこういう、皆から担がれる、という位置付けが、よく似合うんだな、杏子さん。
杏子さんの個人の曲を聞いても、この「DANCE BABY DANCE」に見られるような、はじけるような良さはないのだ。
たぶんほんとに姉御肌の、お祭りとかになると、先頭にたって燃えるタイプの人なのじゃないかと想像するが、姉御肌というのは、弟分、妹分がいないと成立しないわけで、だからこのビデオは、杏子さんの良さを最大限に発揮させたものとも、言えるのかもしれないよな。

同じやり方をして、やはり感動的な仲間の雰囲気をつくりだしたと、僕が思うのが、「踊る大捜査線」なのだ。
警察の中に、会社にあるような上下関係を、きちんと描き、それが逆に、横の平たい関係を感じさせるのだよな。

外国だったら、こうやって多数のミュージシャンが登場して、そこに連帯を表現するものというのは、「ウィーアーザワールド」とかがあるわけだが、基本的に「チャリティー」という目的のために、皆が集まり、個人の我をおさえて協力する、ということになるわけだ。
それにたいして、こちらは上下関係。
日本的ということなのだろうな、まさに。