2008-09-17

広島中広 ラーメン 紺屋


この店は、店のホームページにも書いてあるが、
「化学調味料を使わず、自然の味を追求したラーメン」
を出す店なのだ。
「おいしくて体に良いラーメンの店」
がキャッチフレーズ。
店の客席にも、メニューの他にわざわざ一枚、それを延々と説明する文が置いてある。
これはつまり店主は、
「化学調味料を使うということが、不自然で体に悪い」
と言っているわけだが、要は化学調味料というものを悪者に仕立て上げ、
「自分はそっちじゃないから、だからいい者だよね、にこ」
と訴えるというやり方、何かをけなすことで、自分の存在場所を確保するというやり方をしているわけである。

これは世の中でほんとによく使われる、常套手段であるとは思う。
例をあげればキリが無いが、アメリカがアフガンやイラクを攻撃する時に使われる文句、「テロの脅威」も、まさに同じだ。
アメリカの場合、貿易センタービルに民間航空機を突っ込まれるというとんでもないことをされ、何千人という人が死んだわけだから、その首謀者であると犯行声明を出したビンラディンとタリバンが潜むアフガンを攻撃するというのは、まだ理解できるものもある。
しかしその余勢を買って、イラクが核兵器を隠しているからテロの脅威だといって攻撃し、政権を転覆させ、フセイン大統領を死刑にしてしまう。
テロの脅威と言うともっともらしく聞こえるが、それではイラクが核兵器を持っていたのかと言えばそうではなかったわけだし、イラクでアメリカ兵が非道な拷問をしていたりということも、何となくその錦の御旗の影で見過ごされてしまう。

これはもちろん、分かりやすいかなと思って、いちばん悪質なものを例として挙げてしまったわけで、化学調味料の場合は、話としてはもっと穏やかなのは言うまでもない。
しかしやっていることの構造は同じなのだ。

まず「化学調味料が不自然で体に悪い」というが、それは本当にそうなのか、ということがある。
毒入りの米や粉ミルクとなれば、それは体に悪いのはもちろんだし、農薬なんかも体にはあまり良くないだろう。
しかし化学調味料はサトウキビを発酵させ、それを精製して作られるもので、それが「体に悪い」とはどんな根拠があるのか、聞きたくなる。

しかしまあ、それは僕としてはどちらでも良いのだ。
化学調味料が体に良くても悪くてもいい。

それよりこの件にかんして一番のポイントは、「化学調味料を使っていないからいい者だ」という印象を人にあたえることで、「それではこの店が実際に何をやっているのか」ということが見えにくくなっているのではないか、ということだ。
「化学調味料を使っていないのだから、いいことをしているんだろう」と思いがちだが、本当にそうなのか?
こういう錦の御旗があるときは、「実はたいしたことやってないんじゃないか」ということをいつも疑ってかからないと、コロリとだまされてしまう危険があると僕は思う。


しょうゆラーメン800円。
写真だと分からないのだが、まずどんぶりが小さいことに驚く。
高さがあって、容積としては普通の丼とさほど変わらないのかもしれないが、ラーメンの丼としては間口というのか、開口部の面積が小さいから、「小さい」という印象を持つことはたしかだ。
でもたぶん、店主はそれを計算しているだろう。
この驚きは店主が、
「いやいや、小さく見えますが、中身は充実してますよ」とか、
「そう、これは普通のラーメンとは違うんですよ」
いうようなメッセージを伝えようとしているということなのだと思う。
店主はけっこうな戦略家なのだ。

さて肝心な丼の中身なのだが、たしかに良い材料をいろいろ使っているのだろう、また調理の手腕も並ではない。
チャーシューもトロトロすぎず、ちょうどいい加減のもっちりとした感じ。
味も上品につけられている。
ゆで玉子も信じられないほど味が濃い。
出しの具材や醤油なども、良いものを選びに選んでいるのだろう。
麺もちょっと固めでモソモソした感じで、スープとの絡みもよい。

また店主が様々な工夫をする人であるということも伝わってくる。
このラーメンにはメンマが入っていなくて、その代わりタケノコを薄味で煮含めたようなものが入っている。
洒落ていると言えば洒落ている。
白菜をちょっと湯がいたようなものも入っていて、これは普通のラーメンには全く入っていないものだから、これこそ店主が「これは普通のラーメンとは違うんですよ」と主張する、その象徴のようなものだが、上品な感じがすると言えばする。

とまあ、一つひとつの要素を見れば、どれもそれなりなのだ。
しかしそれでは全体として見たとき、このラーメンはおいしいのか?

いちばんの問題は、スープがかなり甘く調整されていることだ。
ラーメンのスープというより、煮物の汁に近い味がする。
これももちろん、店主が「普通のラーメンではないラーメン」を演出しようとしてそのようにしている訳だが、僕に言わせれば、申し訳ないがこのラーメン、スープと具と、全体を考え合わせると、食材マニアが悪ふざけをして、ラーメンに似た煮物をつくって喜んでいる、というようにしか思えないのだ。
「どうです?このラーメン、ちょっと変わってて、お洒落でいいでしょ、食材にもかなりこだわってます、分かってくれました?」という店主の声は聞こえてくるのだが、それはただ虚ろに響くだけだ。
「ラーメン」という歴史ある食べ物を本当に正面から受け止め、それを踏まえた上で自分なりの解釈をするという誠意が、このラーメンからは感じられないのである。

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