2008-08-24

広島 お好み共和国ひろしま村 えんじゃ


新天地の西側に広場があって、そこに「お好み村」という、2階から4階までお好み屋ばっかり30店くらい入ったビルがあるのだけど、その二軒隣に「お好み共和国ひろしま村」という、2階と3階にお好み屋が6軒、入ったビルがあって、この「えんじゃ」は、その2階にある。
エレベーターで2階に上がると、四方がお好み屋の店舗になっていて、真ん中にテーブルがあり、店内だけでなくそこでも食べられるようになっている。
えんじゃはエレベーターを出て左の端にあり、店内は鉄板席のみ、詰めて座って10人がぎりぎりという店だ。

店主は有名な八昌で修行されたとのことで、聞くところによると材料も八昌と同じものを使い、八昌と全く同じお好み焼きを焼くらしい。

八昌は、店主が薬研堀と五日市と、二箇所で営業している他に、八昌で修行した職人さんが、各地で店を出している。
それらの元八昌の職人さんの店、僕はこれまで何軒か行ったのだが、残念ながら八昌にくらべると、かなり味が落ちるというのが感想だった。
この日記に書けないくらい、ひどかった所もある。
まあもちろん、チェーン店でもないわけだし、修行したとは言っても焼くのは本人だから、その職人さんの資質や考え方によるところも大きいと思う。
しかし八昌の焼き方には、一つ大きな特徴があって、それをその通りにやるか、やらないかが、味を大きく左右すると思うのだ。

広島風お好み焼きというのは、まず鉄板に生地を丸くのばし、そこにキャベツともやしをこんもりのせ、魚粉をふりかけ、豚の三枚肉をのせ、つなぎの生地をふりかけたり、ラードをのせたりして、それをひっくり返す。
そして肉と野菜に火を通すわけなのだが、八昌のばあい、それにかける時間がめちゃくちゃ長いのだ。
たっぷり15分はかける。
普通の店だとまあ5分か、長くても10分。
15分かけても焦げないように、鉄板の火加減をかなり弱く調節してあるのだと思うが、そうやって弱火で長時間、火を通すことによって、キャベツがほんとにほくほくと柔らかく、そして甘くなる。
ドイツ料理のザワークラウトのような味になるのだ。
このほくほくキャベツと、パリッと硬い麺や生地のコントラストが、八昌のお好み焼きのおいしさの大きな特徴なのだと思う。

ところでこの15分という時間、たいへん長い。
客にとっても、お腹をすかせて待つ時間としてはかなり長いが、それ以上に、客を待たせる店主の側にとってみれば、永遠ともいえる時間になるのではないかと思う。

一つには、お好み焼きを一枚焼くのにかける時間が長くなれば、それだけ客の回転が下がって、儲けが少なくなるということがある。
それでも敢えて時間をかけるというのは、けっこうな勇気がいると思う。

またお好み焼屋の鉄板は、店主の目の前に客がいる。
お腹をすかせてじりじりと待っている客を前にして、少しでも早く料理を出してやりたいというのは、人情である。
その人情に逆らって、客を待たせなければならないのだから、それには勇気だけでなく、忍耐力も必要になる。

あと、女将さんの反対、というのも大きいのではないかという気がする。
これは差別的な言い方で申し訳ないのだけれど、女性は、たかがキャベツに火を通すなどということのために、儲けを減らし、客を待たせるということを、なかなか理解しないのではないかと思う。
なので、ご主人は八昌で修行して、15分待つことがおいしいのだ、と思っても、女将さんの反対にあい、玉砕してしまう、ということがあるのではないかと思う。

まあ、実際にはそんな大げさなものではないかも知れないが、いずれにせよ、八昌で修行した人間も、この15分間を継承することだけは、なかなか出来ないのである。

ところがこのえんじゃの店主、この15分間をきっちり守っていた。
ちなみにこの店、女将さんはいなくて、若い店主が一人で切り盛りしている。
しかしたぶん店主も客を待たせるのは、けっこう辛いのだろう、15分の間、後ろを向いてしまい、皿洗い機に皿を入れたり、キャベツやもやしを補給したり、あれこれ忙しそうにしていた。
あ、もしかしたらほんとに忙しかったのかも知れないけど、でもそうでもしないと間が持たないのだと思う。


というわけで15分かけて火を通したえんじゃのお好み焼き、たいへんおいしかった。
そば肉玉、735円。
これからもぜひ負けずに、頑張ってほしいと思う。

えんじゃ (お好み焼き / 八丁堀)
★★★★ 4.0

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