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2010-04-09

中村桂子先生インタビュー(1) 「分子生物学の始まり」



高野 中村先生のお書きになった「ゲノムが語る生命―新しい知の創出 (集英社新書)」を読ませていただきまして、ものすごく面白かったのです。今日はお時間をいただきまして、この本のことについて、中村先生にいくつかのご質問をさせていただきたいと思います。

この本の前半の部分で中村先生、今の生物学、生命科学の現状についてかなりのページ数をさかれていまして、「第4の科学革命」ですとか、「第2のルネッサンス」ですとか、そういう、それこそ革命的な転換が成し遂げられなければならないとお書きになっていらっしゃいます。それほどの危機感を、中村先生が生命科学の現状について、お持ちになっていらっしゃるということだと思うわけなのですが、そのあたりのことからお伺いできればと思っています。 

中村先生が、すべての細胞の中に入っている遺伝物質「DNA」の総体である、「ゲノム」の大切さを踏まえて、「生命誌を」提唱されたのは、もう20年以上前になるのでしたっけ。 
  
中村 そうですね。 考え始めたのが85年頃、研究館を構想したのは89年。
  
高野 1950年代に、生きものの遺伝をつかさどる物質が「デオキシリボ核酸」(DNA)という分子であることが発見され、それから続々と実際に、生きものの様々な性質を決めると考えられた「遺伝子」が、DNA分子の配列として明らかにされていった。しかし中村先生は、生きものとはあくまで「全体として」生きているのであって、ただ生きもののからだの部分の性質を一つ一つ明らかにしていっても、それだけでは「生きているとは何か」を明らかにすることにはならない。生きものの研究は、遺伝子ではなく、生きものがそれぞれ持っているDNAの総体である「ゲノム」を中心として行われなければならないと、提唱されたのですよね。 

その後世の中は、中村先生のおっしゃったとおりに、遺伝子を解明するだけのところからゲノムを解明するというところへと大きく動き、そして「ヒトゲノムプロジェクト」によって、人間のゲノムをすべて解読するというところにまで至ったわけなのですけれど、それでは今、生命科学が、中村先生がお考えになったように「生きているとは何か」を明らかにするというところへ、実際に向かっているのかといえば、まったくそうではない。医療や産業と結びつくことにより、それとはまったく逆ともいえる方向へ向かってしまっていると中村先生はお書きになっていらっしゃいますね。 
  
中村 医療は大切なことだし、生命科学が医療と結びつくこと自体は、何も問題はないのよ。でも生きものを考えながら医療を進めなかったら、よい医療にならないでしょう。 

私は今、今年1年をかけて本を書こうと思っていて、その出発点をあなたのブログで最初に言うことになるのだけれど。

分子生物学の始まりは、実は物理学から出ているわけです。1930年代、40年代にアインシュタイン、ハイゼンベルク、ボーア、シュレディンガーなどが新しい物理学を創りました。その前にプランクがいて。まさに「知の巨人」で、相対性理論や量子力学、宇宙から素粒子までが明らかにされて、物理学が輝いていた時です。 

ところが学問というものは、外から華々しく、盛んに見えている時は、もうすでに中にいる真剣に考えている人たちは、次を考え始める大切な時なのです。 

(つづく)